ミヒャエル・エンデの名作『モモ』には、灰色のスーツを着た「時間泥棒」が登場します。「彼らの提案は、現代の私たちが日々受け取っているメッセージそのものだ」――そう警鐘を鳴らすのは、『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さん。実は山口さん自身、30代で「設定した目標がことごとく実現するのに、全然ハッピーにならない」という不可解な状態に陥った経験があると言います。その原因は、意外なところにありました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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時間泥棒の「巧妙な提案」
――山口さんは『人生の経営戦略』の中で、ミヒャエル・エンデの名作『モモ』に登場する「時間泥棒」に触れていますね。私たちはいつのまにか時間泥棒に人生を奪われているのかも……とヒヤリとします。
山口周氏(以下、山口):時間泥棒たちが訴えたのは「愛する家族や隣人のために無為に使っている時間資本を切り詰めて貯蓄に回せば、あなたはお金持ちになれますよ」という提案でした。
――私たちは誰でも「時間資本」を持っており、その時間資本をどう配分するかが「人生の経営戦略」において重要なんでしたよね。時間資本を「人的資本」「社会資本」「金融資本」に転換しながら、継続的なウェルビーイングの状態を目指したいけれど、3つの資本とウェルビーイングとの関係がけっこう難しいと。
山口:人的資本と社会資本には「仕事をするうえで役に立つ資本」と「人生を豊かにしてくれる資本」の2種類あります。
時間泥棒が提案しているのは「人生を豊かにしてくれる資本」のために注いでいた時間を、金融資本を築くためだけに集中して使ってはどうか、という提案です。
そして、この提案を受け入れた人たちは、自分でも気づかないうちに、かつて実現していたウェルビーイングの状態をどんどん破壊していってしまう。それまで十分幸福に暮らしていたのに、です。
「自分にとって大事なもの」を意識するしかない
――時間泥棒に人生を奪われないためには、どうすればいいのでしょう。
山口:答えはただひとつ、「自分にとって本当に大事なもの」「自分が本当に実現したいこと」を意識して、時間資本の配分をマネージするしかありません。
これを怠れば、私たちの人生は、社会のそこかしこにいる時間泥棒に簡単にハックされてしまいます。「自分が本当に望んでいること」ではなく「時間泥棒が望んでいること」に時間資本を使うようになってしまう。こうなってしまえば、いくら精緻な「人生の経営戦略」を立てても意味がありません。
人生が不幸になる人は「他人」のために生きている
――山口さんがこの点を強調するのには、理由があるそうですね。
山口:この教訓は、私自身の失敗に根ざしているんです。私は30代の半ば頃から、自分の人生に経営戦略論を持ち込むということを始めました。当初起きたことは、「設定した目標がことごとく実現するのに、全然ハッピーにならない」という困惑させられる事態だったんです。
いまから思えば、当時の私が手に入れようとしていたものは、自分自身が心から望んでいたものではなく、周囲の他人を羨ましがらせるものだったように思います。何のことはない、私にとっての時間泥棒は「私自身」だったということです。
ですから皆さんには、どうか私と同じ轍を踏むことのないよう、「自分の人生にとって本当に大事なこと」を意識しながら、人生の経営戦略を検討してもらえればと思っています。





