「『機会』を待て。しかし『時期』を待ってはならない」――『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』で山口周さんが引用するのは、ミューラーのこんな言葉です。「やっていることは間違っていないのに、今ひとつパッとしない」。個人にも組織にもよく見られるこの状況、原因の多くは「タイミングの悪さ」にあると山口さんは指摘します。日本を代表するネット企業がそろって「ある一瞬」に市場参入していたという事実から、「タイミングの戦略」を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)
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「16%の溝」を超えると市場は爆発する
――ビジネスにおいて、時流を読むのは重要だと思います。新しい分野にいつ参入すべきかなど、何かヒントはありますか?
山口周氏(以下、山口):マーケティング・コンサルタントのジェフリー・ムーアが提唱した「キャズム」のコンセプトを見てみましょう。
市場や社会は、新しい商品や概念を一様に受け入れるわけではありません。まずは新しいものに抵抗感の少ないイノベーター層が採用し、時間をかけて順繰りに保守的な人々へ浸透していきます。
キャズムとは、この浸透プロセスの初期、アーリーアダプターとアーリーマジョリティのあいだ、市場浸透率16%前後に存在する「溝」のことです。なぜ重要かというと、ここを超えると市場が一気に拡大すると考えられているからです。
ヤフー、楽天、サイバーエージェントの共通点
――「キャズムの直前」に動くことができれば、急成長できるかもしれないわけですね。
山口:日本ではインターネットが1996年から普及し始め、キャズムとされる16%を超えたのが1999年でした。このタイミング以前に参入していた企業を挙げると、1996年のヤフージャパン、1997年の楽天、1998年のサイバーエージェントの3社です。
「日本を代表する」という枕詞で語られるネット企業3社が、そろって「キャズムの直前」に参入しているのは偶然ではありません。「市場が爆発的に拡大する直前」に参入したからこそ、後発企業よりはるかに優位な状況で事業基盤を築けたのです。
私たちはよく「成長市場」という言葉を使いますが、実は、成長市場が本当に「爆発的に成長している期間」は「一瞬」と表現していいほど短いのです。日本のインターネット普及率の伸長率を見ると、90年代から00年代初頭にかけて平均80%近い率で伸びていたのが、02年以降は急ブレーキがかかっています。
だからこそ、この「一瞬」を捉えた企業とそうでない企業では大きな差が生まれるのです。
運をとらえる人は、「時期尚早」で動く
――やはりその「一瞬」をとらえて決断するのは難しいのでしょうね。
山口:誰もが「時期尚早」と言うなかで、大胆に決断することが必要です。
1990年代後半、インターネット事業を検討した企業は少なくありませんでしたが、多くは「時期尚早である」と判断を保留しました。いま考えると信じられませんが、当時は電通の社内にも「インターネットは日本では流行しない。そのうち必ず消えてなくなる」と冷ややかに構える人が少なからずいたんです。孫正義さんが社運を賭けて参入を決めた1995年前後は、政府の統計すら準備されていない時期です。96年時点の世帯普及率はたったの3.3%でした。
結局、懐疑派が絶滅したのは普及率が50%を超えた2001~02年頃で、そこから多くの企業が参入しますが、その時点で市場の伸びには急ブレーキがかかっていました。新規参入者は血みどろのレッドオーシャンにダイブすることになりました。市場調査などのエビデンスが揃う頃には、すでに勝敗は決しているんです。
とはいえ「早ければ早いほど良い」わけでもありません。
はっきりした兆候が見えるまで待てば手遅れ、でも市場の胎動が始まる前に動いてもうまくいかない。早すぎるタイミングで飛び出しても波には乗れないんです。この辺りは実にサーフィンの感覚に似ていますね。





