米国で中国や台湾を専門とする地域研究者の間では、中国共産党による帝国主義的な拡張への警戒感がかつてないほど高まっている。筆者が2025年夏に参加した台湾研究に関する学会では、「台湾統一のその先」にある中国の地政学的野心が真剣に議論されていた。学会での議論の中心にあったのは、統一がゴールではなくスタートであり、その拡張衝動が日本や東南アジアに波及するのではないかという論点である。

 同会議では「中華帝国は無限に拡大する。彼らは台湾を統一した次は沖縄を狙う」という見解が複数の教授からあった。台湾に対する中国の圧力を見て、沖縄の危機を連想することは、決して杞憂でも陰謀論でもないのだ。

 中国社会科学院(社科院)日本研究所の楊伯江所長は最近の論文で「1971年に米国は沖縄の施政権を勝手に日本へ引き渡した」と中国が主張していることや、習近平の琉球の主権に関する発言などに、そうした片鱗が見られると述べている。

中国が沖縄の「未解決性」を
繰り返し持ち出す狙い

 中国は近年、沖縄をめぐり「歴史・国際法上の地位の未決性(未解決性)」を示唆する発言と論調を断続的に繰り返している。

 その具体的な狙いは、日米同盟の分断、さらには台湾有事への日本側の介入コスト引き上げにある。実際、最近筆者が中国のシンクタンク研究者と交流する時にも、沖縄への言及をよく聞く。

 近年の中国における沖縄に関する言説では、まず「沖縄の国際的地位の再議」を示唆する発信が挙げられる。

 中国政府・中国共産党は公式に日本の主権を真っ向から否認してはいないが、中国外交部は沖縄は日本の領土であるにもかかわらず「歴史研究の対象」と主張する。

 党機関紙である人民日報や環球時報の紙面では、中国政府のシンクタンクである中国社会科学院系研究者が「1879年の(琉球の)武力併合の違法性」「サンフランシスコ体制下での沖縄の主権未確定」といった点を強調する。歴史的には日本は沖縄の領有権を有していないとでも言いたげだ。

 これらは、沖縄の帰属について直ちに疑義を呈するというシグナルではないが、「最終帰属は不可侵の既成事実ではない」という含みを対外的に保つための中国特有のレトリックである。

 また、近年、中国における沖縄に関する学術研究の拡大が顕著だ。