「なんでこんな簡単なことが伝わらないんだ?」。そう思ったとき、原因を相手の理解力に求めてしまいがちです。しかし、「自分にはわかるのに、相手にはわからない」のには理由があります。伝えるのがうまい人は、自分の言葉より先に「相手の頭の中」を見ようとするのです。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない――絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「なんでわからないの?」と思ってしまう理由
仕事でもプライベートでも、こんな経験はないでしょうか。
こちらはかなり丁寧に説明した。
難しい言葉も使っていない。
順序立てて話したつもりなのに、相手はポカンとしている。
「いや、だから……」と、もう一度説明する。それでも伝わらない。
すると、だんだんイライラしてきます。
「なんでこんな簡単なことがわからないんだ?」
そして最後には、相手の理解力の問題だと思ってしまう。
しかし、本当にそうでしょうか。
「なんでわかんないんだ?」と思わず言ってしまう。
直接相手には言わなくても「わかんないほうがバカなんだ」と割り切る人もいます。
ついうっかり、相手が悪いと思ってしまうのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここで見落としていることがあります。
それは、自分にとって「わかりやすい話」が、相手にとってもわかりやすいとは限らないということです。
自分の頭の中では、すべてがつながっている
たとえば、ある仕事について10年間考えてきた人がいるとします。
その人の頭の中には、膨大な知識があります。
「あの仕事」と聞けば、過去の経験を思い出す。
その経験から、取引先の顔を思い浮かべる。
取引先から、ある業界の事情を思い出す。
業界の事情から、最近起きた問題につながる。
頭の中にある知識が、ネットワークのようにつながっているのです。
だから本人にとっては、A→B→C→Dという話が、当たり前のようにつながって見えます。
ところが、相手の頭の中にAしかなかったらどうでしょう。
いきなりDについて話されても、「なんでその話になるの?」となります。
説明している本人からすれば、「Aの話をしているんだから、当然Dの話になるでしょ」と思う。
でも、相手にはBとCがありません。その道を知らないのです。
「言語化できた=伝わる」ではない
そして、相手との心理的な距離感が離れているということです。
相手に何かを伝えたいなら、自分の考えを言葉にするだけでは不十分です。
自分の考えを言葉にできれば、たしかに「言語化」をしていることにはなります。
でも、それだけでは伝わらないのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここは、コミュニケーションを考えるうえで非常に重要です。
「自分の考えをうまく言葉にできれば、相手に伝わる」
私たちはそう考えがちです。
しかし、これは半分しか正しくありません。
自分の考えを言葉にするのは、あくまで「自分側」の作業です。
相手に伝えるには、もうひとつの作業が必要になります。
その言葉を、相手の頭の中にあるものとつなげることです。
たとえば、専門家が専門用語を完璧に使って説明したとしても、初心者には伝わらないことがあります。
専門家にとっては、その言葉から100のことが連想される。
でも、初心者にとってはゼロです。
同じ言葉を聞いているのに、頭の中で起きていることはまったく違います。
「わかりやすさ」は、話し手だけでは決まらない
だから、絶対的に「わかりやすい説明」があるわけではありません。
小学1年生にわかりやすい説明と、大学教授にわかりやすい説明は違います。
新入社員に伝わる説明と、20年間その仕事をしてきたベテランに伝わる説明も違う。
相手が何を知っているかによって、「わかりやすさ」は変わります。
たとえば、「野球でいう送りバントみたいなものです」と説明したとします。
野球好きには、一瞬で伝わるかもしれません。
しかし、野球を一度も見たことがない人には、新しく「送りバント」を説明する仕事が増えただけです。
つまり、説明のうまさとは、難しいことを簡単な言葉に変換する能力だけではありません。
「相手がすでに知っているもの」を見つける能力でもあるのです。
まず「共通のアレやコレ」をつくる
では、どうすればいいのでしょうか。
それはつまり、相手と共通の「アレ」や「コレ」を探し出すことです。
自分の思っていることが相手に伝わらないとき、私たちは切なさを感じます。
でも、そこで相手を非難したところで、伝わるようにはなりません。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
相手と共有している「アレ」「コレ」を探します。
「あの会議のときのこと、覚えてる?」
「この前見せた資料なんだけど」
「○○さんがやっていた、あの方法あるじゃない?」
共通して知っている具体的なものから話を始める。
すると、話し手と聞き手が同じ場所に立つことができます。
そこから、「あれと同じで……」と話を進めていけばいいのです。
いきなり自分の頭の中に相手を連れてくるのではありません。
まず相手のいる場所まで自分が行く。
そして、そこから一緒に歩いていくのです。
「相手がわかってくれない」は危険なサイン
伝わらないときほど、「もっとちゃんと説明しなきゃ」と思います。
そして、同じ説明をさらに詳しく繰り返してしまう。
しかし、それでは伝わらないことがあります。
相手の頭の中に、その説明をつなげる場所がないからです。
そんなときに必要なのは、いったん止まって、「この人は、どこまで知っているんだろう?」「何なら共通して知っているだろう?」と考えることです。
そして、この話は「伝える側」だけの問題ではありません。
誰かの話を聞いて、「この人、何を言ってるのかわからない」と思ったときにも使えます。
相手の頭の中では、ちゃんとつながっている。
ただ、自分にはその途中の道が見えていない。
そう考えれば、「どういう意味?」だけではなく、「それって、何とつながっている話?」「何か具体例はある?」「たとえば、どういうこと?」と聞けるようになります。
すると、相手の頭の中にあるネットワークが少しずつ見えてきます。
「伝える」とは、相手の世界まで橋をかけること
コミュニケーションで難しいのは、自分と相手が別々の頭を持っていることです。
見てきたものも違う。
経験してきたことも違う。
知っていることも違う。
だから、頭の中にあるネットワークも違います。
その状態で、自分の考えだけをきれいに言語化して、「さあ、わかってください」と言っても、うまくいかないことがある。
必要なのは、自分の世界から相手の世界へ橋をかけることです。
その橋になるのが、お互いが知っている「アレ」や「コレ」です。
相手に伝わらないとき、「なんでわからないんだ」と責めるのは簡単です。
しかし、それでは距離はさらに離れてしまいます。
「相手は何を知っているんだろう?」
伝わらないときほど、この問いから始める。
自分の言葉を磨くこと以上に、相手の頭の中を想像すること。
それが、「わかりにくい」を「わかる」に変えるための第一歩なのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない――絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




