「面白いことを言おう」と頑張っているのに、なぜかウケない。一方で、何気ない一言で周囲を笑わせる人もいます。この差は、センスだけではありません。実は「笑い」もコミュニケーションのひとつ。相手と何を共有しているかによって、同じ言葉でも面白さは大きく変わるのです。本記事では、イラストレーターのヤギワタル氏の書籍『言語化だけじゃ伝わんない 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「人を笑わせる人」になる方法・ベスト1

「面白い話」なのに、なぜウケないのか?

 誰かに面白かった出来事を話したのに、思ったほど笑ってもらえなかった。
 そんな経験はないでしょうか。

「昨日、会社でめちゃくちゃ面白いことがあってさ」

 そう言って話しはじめたものの、相手の反応は、「へえ、そうなんだ」で終わってしまう。
 話している本人としては爆笑ものです。ところが、聞いている人には何が面白いのかわからない。

 こういうとき、つい「話し方が悪かった」と考えてしまいます。
 もちろん、それもあるでしょう。

 しかし、もっと根本的な問題があります。
 それは、面白さを感じるための前提を、相手と共有できていないことです。

「面白さ」は、同じものを見ているからこそ伝わるものです。
それがよくわかるのが「モノマネ」です。
モノマネは、もとのマネされる人を知らないと、面白味が伝わりません。
「似ている!」という驚きや、「似ている!でもちょっと似ていない……」という絶妙なズレが面白味になります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 たとえば、ある有名人のモノマネを完璧にやったとします。
 その人をよく知っている人なら、「似てる!」と笑えるでしょう。

 しかし、その有名人を一度も見たことがない人に披露しても、何が面白いのかわかりません。
 比較する「元ネタ」が頭の中にないからです

 笑わせるためには、笑いの技術以前に、相手と同じものを見ている必要があるのです。

笑いは「共通理解」から生まれる

 これはモノマネだけの話ではありません。
 会社の同僚同士で、「あの部長、また言ってたよ」だけで笑いが起きることがあります。

 第三者が聞いたら、何も面白くありません。
 しかし、その部長の口癖を知っている人同士なら、それだけで笑える。

 友人同士なら、「あの店、また行く?」「いや、もういいだろ」だけで爆笑することもあるでしょう。
 過去にその店で起きた出来事を共有しているからです。

 つまり、笑いには「前提」があります
 何が面白いのかを全部説明しなければならない状態では、なかなか笑いは生まれません。

「あの人のことね」
「あのときの話ね」

 と、説明せずともわかるものが増えるほど、笑いを共有しやすくなります。

相手と「同じものを見る」。
そうすると、面白さも分かち合えるということです。
このとき、同じものを見ても、感じ方は人それぞれです。
そのちがいが生まれる理由は、過去に見てきたものがちがうからです。
過去に見てきたものとの比較で、ものごとを見てしまうからなのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 ここでもうひとつ重要なのは、同じものを見たからといって、同じように感じるわけではないということです。
 同じ映画を見ても、「最高だった」と思う人もいれば、「退屈だった」と感じる人もいる。
 同じ芸人を見ても、腹を抱えて笑う人もいれば、まったく笑わない人もいる。

 その違いを生んでいるのが、それまでに見てきたものです。

「何を面白いと思うか」には、その人の過去が出る

 たとえば、子どもの頃からお笑い番組をたくさん見てきた人と、ほとんど見てこなかった人では、「面白い」の基準が違うでしょう。
 映画を年間100本見る人と、年に1本しか見ない人でも、映画に対する感じ方は違うかもしれません。

 つまり、人を笑わせるのがうまい人は、ただ「面白いことを言える人」ではありません。
 目の前の人が何を面白いと感じる人なのかを、なんとなく掴んでいる人なのです
 友人同士で笑いが生まれやすいのも、そのためです。

 付き合いが長くなるほど、「この人は、こういうくだらない話が好きだ」「この話題は、この人には刺さらない」「こういう言い方をすると笑う」ということがわかってきます。

 だから、笑わせやすい。
 逆に、初対面の相手を笑わせるのは難しい。

 相手が何を見てきて、何を面白いと思う人なのか、まだわからないからです。

相手が好きなものを「ひとつだけ」見てみる

 では、人を笑わせるために、相手の人生をすべて調べる必要があるのでしょうか。
 もちろん、そんなことはできません。

だからそのちがいをより詳しく知るためには、相手が過去に何を見てきたかも知らなければいけません。
正直、とても面倒です。
でも、たとえばひとつだけ、相手が過去に見てきたものを選んで見てみる。
ほんの少し踏み込んで見てみるだけで、相手の考えはぐっとわかるようになります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 相手が好きな芸人をひと組だけ見てみる。
 好きな漫画を1巻だけ読む。
 よく話題にするYouTubeチャンネルをひとつ見る。
 好きな映画を1本観てみる。

 それだけでも、相手が何を見て笑っているのかが少しわかります。
 すると次に会ったとき、「あれ見たよ」と言える。

 そこから、「どこが好きなの?」「この場面、面白かった」と会話が広がります。
 そこで相手の反応を知れば、さらにその人の「面白い」の基準が見えてくる。

 笑わせるために必要なのは、面白いネタを大量に仕入れることだけではありません。
 相手の「面白い」を知ることなのです

面白い人は、「相手」を見ている

「人を笑わせたい」と思うと、つい自分に意識が向きます。

 何か面白いことを言わなければ。
 気の利いた返しをしなければ。
 オチをつけなければ。

 しかし、それではコミュニケーションが自分中心になってしまいます。

 大事なのは、相手を見ることです
 この人は何を見てきたのか。何が好きなのか。どんなことで笑うのか。何を一緒に見てきたのか。
 そこに目を向ける。そして、「同じもの」を少しずつ増やしていく。

 共通理解が増えれば、「アレ、面白かったよね」の「アレ」だけで笑えるようになります。
 人を笑わせる人になる方法は、面白いことを言おうとすることではありません。

 相手と「面白い」を共有できる土台をつくること
 笑いとは、自分ひとりで生み出すものではなく、相手との間に生まれるものなのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。