難しいことを説明しているのに、なぜかスッと頭に入ってくる人がいます。その秘密は、難しい言葉を簡単な言葉に言い換えることだけではありません。相手がすでに知っているものを使って、「これって、○○みたいなものです」と伝える。説明がうまい人は、「比喩」を使って相手の頭の中に橋をかけているのです。本記事では、イラストレーターのヤギワタル氏の書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウを紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「めちゃくちゃ説明がわかりやすい人」が無意識に話していること・ベスト1

わからないことは「知っていること」で理解する

 知らない街について、誰かから説明される場面を想像してみてください。

 人口は何万人。面積は何平方キロメートル。年間降水量はどのくらいで、主要産業は何で……。
 いくら情報を並べられても、その街のイメージはなかなか浮かびません。

 ところが、「京都みたいな街です」「渋谷をもっと巨大にした感じです」と言われると、なんとなくイメージできる。もちろん、実際には京都とも渋谷とも違います。それでも、何も知らなかった状態から、一気に輪郭が見えてきます。

 説明がわかりやすい人は、この「知っているものから、知らないものへ」という道筋をつくるのがうまいのです。

江戸時代の大阪(当時は大坂)は「東洋のベニス」と呼ばれていたそうです。
イタリアのヴェネツィア(ベニス)と似ている点があったからでしょう。
食べ物や家屋はなにも似ていませんが、水運を利用している点が似ていました。
江戸時代の大坂は水路を使ってものを輸送していました。
それが、ヴェネツィアの様子と似ていたのです。
「大阪と水運」そして「水運とヴェネツィア」というネットワークをつなぐ。
西洋の人は、最初、大阪という街のことを何も知りませんでした。
それを、彼らが知っているヴェネツィアという街との比較で捉えようとしたのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「大坂とは、こういう街です」とゼロから説明するのは大変です。

 しかし、「ヴェネツィアみたいな街」と言えば、ヴェネツィアを知っている人には伝わります。
 相手の頭の中にすでにある「ヴェネツィア」という知識を利用できるからです。

比喩は「知らない」と「知っている」をつなぐ

「なにやら東洋にはヴェネツィアに似たような街があるらしい」
そう思うと、見知らぬ国の見知らぬ街にほんの少し輪郭が見えてくる。
謎の場所ではなくなる、ということです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 比喩の目的は、相手に100%正確な情報を伝えることではありません。
 まず、わからないものに輪郭を与えることです。

 たとえば、新しいサービスについて説明するとき。

「ユーザー同士が情報を投稿し、それをアルゴリズムによって最適化して……」と説明するより、「SNS版の○○みたいなものです」と、相手が知っているサービスを挙げたほうが、最初のイメージはつかみやすい。

 会社の新しい制度を説明するときも、「学校の単位制に近いです」と言えば、長い説明をしなくても大枠が伝わるかもしれません。

 比喩は、情報をゼロから積み上げなくていいのです。
 相手がすでに持っている知識を借りて、そこから説明をスタートできます

説明がヘタな人は「全部」を言葉にしようとする

 説明がわかりにくい人ほど、正確に伝えようとして、情報をどんどん足してしまうことがあります。

「誤解されたくない」
「ちゃんと説明しなければ」

 と思うあまり、前提条件から例外まで、すべて言葉で説明する。
 すると、説明する側は丁寧に話しているつもりなのに、聞く側は、「つまり、何?」となってしまいます。

 考えていることを、そのまま文章に変換しようとするからです
 頭の中にある考えには、さまざまな情報がつながっています。

 それを一本の文章にして順番に伝えれば、どうしても長くなる。
 そこで役に立つのが、比喩です

考えていることは目に見えません。
それを文章にすると、長くなってしまって、相手が理解するのも負担になります。
だからもし、自分の考えを「目に見えるもの」でたとえることができれば、相手にパッと伝えることができるはずです
これがいわゆる、「比喩」の考え方です。
「コレみたいなもんです」と実物を指し示して、「こっちのコレとあっちのコレが似ている」と説明するのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「東洋のベニス」も、まさにそうです。
 大坂という未知の街について、あらゆる情報を文章で説明するのではありません。
「ヴェネツィアみたいなもの」と、すでに見えるものに置き換える。

 すると、相手の頭の中にイメージが立ち上がります。

うまい比喩は「似ているポイント」が明確

 ただし、何でもたとえればいいわけではありません。

「大坂はヴェネツィアみたいだ」と言われても、どこが似ているのかわからなければ、誤解を招きます。

 街並みなのか。食文化なのか。気候なのか。人々の気質なのか。
 今回のポイントは「水運」です。

 だから、「水路を使って物資を運ぶという意味では、ヴェネツィアみたいな街です」と伝えると、よりわかりやすくなる。つまり、比喩を使うときには、「何と何が似ているのか」だけでなく、「どこが似ているのか」まで考えることが大切です。

 これは思考のトレーニングにもなります。

「この会社は学校みたいだ」と思ったなら、どこが学校なのか。
「このプロジェクトはマラソンみたいだ」と思ったなら、何がマラソンなのか。

 長期間続くことなのか。ペース配分が重要なことなのか。一人ひとりが自分の足で走らなければならないことなのか。

「似ている」で終わらず、「どこが似ている?」まで考える
 そこまでできれば、比喩は単なる言葉遊びではなく、説明の道具になります。

わかりやすい人は、相手の頭の中にあるものを使う

 そして、もうひとつ大事なことがあります。
 自分にとってわかりやすい比喩が、相手にもわかりやすいとは限りません。

 野球をまったく見ない人に、「要するに、送りバントみたいなものです」と説明しても伝わらないでしょう。

 相手が知っているものを使う必要があります
 つまり、説明がわかりやすい人は、説明する内容だけを見ているわけではありません。

「この人は、何なら知っているだろう?」と相手の頭の中も見ています。
 子どもに説明するなら、子どもが知っているもの。
 新人に説明するなら、新人でも経験したことのあるもの。
 違う業界の人に説明するなら、その業界特有の言葉を避け、日常生活で目にするもの。
 そこに置き換える。

 説明とは、自分の知っていることをそのまま吐き出す行為ではありません。
 相手がすでに知っている世界まで歩いていって、そこから自分の伝えたいことへ案内する行為なのです

「めちゃくちゃ説明がわかりやすい人」が無意識に話していること。
 それは、「これって、○○みたいなものです」という比喩です。
 知らないものを、知っているものにつなぐ。

 その一本の橋をかけられるだけで、長々と説明しなくても、相手に「なるほど」と思ってもらえるようになるのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。