「伝え方がうまい人」は、難しい言葉を並べる人ではありません。相手が一瞬でイメージできるものに置き換えて話す人です。だから、目に見えない考えも、頭の中に絵が浮かびます。では、その人たちは何を基準に比喩をつくっているのでしょうか。本記事では、イラストレーターのヤギワタル氏の書籍『言語化だけじゃ伝わんない 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

わかりやすい人は、「みんなが知っているもの」で話す
「説明がうまい人」は、比喩を使います。
しかし、ただ比喩を使えばいいわけではありません。
たとえば、「この仕事は将棋みたいなものです」と言われても、将棋を知らない人には伝わりません。
「これはプログラミングでいう○○です」と説明されても、プログラマーではない人にはピンとこないでしょう。
比喩とは、「知らないもの」を「知っているもの」で説明する技術です。
だから、相手が知らないものを使ってしまったら意味がありません。
相手が絶対に知っているものと言えば、たとえば「人間の体」です。
だから、比喩表現には五感を使った表現がすでにたくさんあります。
「いろんなことを知っている」は「視野が広い」。
「わずかな兆候から何かに気づく」は「鼻が利く」。
「厳しいことを言われた」は「耳が痛い」。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
私たちは普段から、このような比喩を無意識に使っています。
視野は、本来「目で見える範囲」のことです。
それを「知識の広さ」の比喩として使っている。
「耳が痛い」も同じです。本当に耳が痛いわけではありません。
でも、誰でも耳が痛い感覚は知っています。
だから、「聞きたくない指摘」を身体感覚に置き換えることで、一瞬で伝わるのです。
「見えない考え」は「見えるもの」に変える
イラストレーターの仕事も、これとよく似ています。
イラストで描けるのは、基本的に目に見えるものだけです。
ところが、世の中には目に見えないテーマがたくさんあります。
自由。責任。プレッシャー。依存。孤独。
これらは、そのままでは描けません。
そこで必要になるのが比喩です。
「コンセプチュアルイラストレーション」と呼ばれる種類のイラストです。
目に見えない考えを、特徴が似ている別のもので表現する方法です。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
たとえば、「プレッシャー」を重い岩で表現する。
「自由」を翼で表現する。
「希望」を朝日で表現する。
誰もが見たことのあるものを借りて、目に見えない考えを見える形に変えていく。
これがコンセプチュアルイラストレーションの考え方です。
実は、話し方もまったく同じです。
目に見えない考えを、そのまま言葉で説明するより、目に見えるものに置き換えたほうが伝わりやすいのです。
比喩は「似ているところ」を探すゲーム
では、どうやって比喩を考えるのでしょうか。
答えはシンプルです。
「何に似ているだろう?」と考えることです。
スマホばかり見ている状態が何に似ているかを探していきます。
「スマホを一度触ってしまうと抜け出せない状態……」
映画で、どろどろした沼に人が沈んで抜け出せないのを見た場面を連想します。
次に「沼」と「スマホ」に何か似ているポイントがないか確認します。
すると、スマホのモニターが沼の水面に似ていることに気づきます。
そうしたら、スマホを沼として描いていくのです。
スマホ依存症は、沼に沈んでいるのと似ている、というイラストになる。
見えないメッセージも、視覚的な絵にできるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
この思考の流れは、とても参考になります。
最初から「スマホは沼だ」と思いつくわけではありません。
まず、「スマホ依存って、どんな状態だろう?」と考える。
「抜け出せない状態だ」
すると、「抜け出せないものって何だろう?」と考える。
そこで「沼」が出てくる。
さらに、「スマホと沼は、見た目にも共通点があるかな?」と探していく。
このように、「何となく似ている」ではなく、「どこが似ているか」を一つひとつ確認していくのです。
伝え方がうまい人は、「頭の中で絵」を探す
私たちは説明するとき、つい言葉だけで考えてしまいます。
「どう言えば伝わるだろう」
「もっと適切な表現はないかな」
もちろん、それも大切です。
しかし、本当に伝え方がうまい人は、その前に別のことをしています。
それは、「この話は、何に似ているだろう?」と考えていることです。
目に見えない考えを、目に見えるものへ変換する。
「成長」は階段かもしれません。
「信頼」は橋かもしれません。
「チームワーク」は歯車かもしれません。
「挑戦」は崖を登ることかもしれません。
そうやって、一度頭の中で絵に変えてから話す。
すると、聞いている相手の頭の中にも同じ絵が浮かびます。
だから、長々と説明しなくても伝わるのです。
伝え方とは、「相手の頭に絵を描くこと」
説明とは、言葉を並べることではありません。
相手の頭の中に、自分と同じイメージをつくることです。
そのためには、抽象的な言葉を増やすよりも、具体的なイメージを増やしたほうがいい。
「コレみたいなものです」と言える比喩を持っている人ほど、説明はわかりやすくなります。
だから、「伝え方がうまい人」が意識していることは、とてもシンプルです。
相手が知っているものを使って、頭の中に絵を描くこと。
言葉だけで説明しようとするのではなく、見えるものに置き換える。
そのひと工夫が、相手の「なるほど」を生み出すのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




