「もっと仲良くなりたい」「自分のことをわかってほしい」。そう思うほど、つい自分の話をしてしまいます。しかし、人との距離を縮めるために必要なのは、その逆です。まず相手が「何を見ているか」を知る。そこからコミュニケーションは始まります。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない――絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「わかってほしい」が、すれちがいを生む
人と話しているとき、私たちは無意識のうちに「自分」を中心に考えています。
自分はこう思う。自分はこう感じた。自分ならこうする。
そして、それを相手に伝えれば、きっとわかってくれるだろうと思っています。
ところが、いざ話してみると反応が薄い。
「へえ、そうなんだ」で終わってしまったり、こちらが期待していたところとは全然ちがう部分に反応されたりする。そんなとき、少し寂しい気持ちになります。
でも、ここにはひとつ大きな勘違いがあります。
相手は、自分と同じ場所から世界を見ているわけではないということです。
「自分のことをわかってほしい。わかってくれるはずだ」
という気持ちがどこかにあるはずです。
私たちは常に自分の視点に立ってものごとを考えます。だから、自分の視点から見える風景がふつうだと思ってしまう。
それが「伝わらないとき」のせつなさにつながります。
でも、ここでやるべきことは相手の視点に立つことです。
ただ、これはとても面倒な作業です。
人それぞれが別々の視点を持っているからです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
「相手の立場になって考えましょう」ということは、実際にやろうとすると、かなり難しい。
なぜなら、「相手の立場」は目に見えないからです。
「相手の視点に立つ」とは、どういうことか
では、「相手の視点に立つ」とは具体的に何をすればいいのでしょうか。
その「どこ」に注目しているか。
そして、過去に見てきたものと「それ」をどうつなげているか。
これをやることによって、私たちは自分の考えを相手に伝えやすくなります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
たとえば、同じ映画を2人で観たとします。
一人は、「主演俳優の演技がすごかった」と言う。
もう一人は、「最後のどんでん返しが面白かった」と言う。
同じ映画を観ています。でも、見ている「場所」がちがいます。
さらに話を聞いてみると、「この俳優、昔の作品からずっと好きなんだよね」という人もいれば、「こういう伏線回収系の映画が好きなんだよ」という人もいる。
そこには、その人が過去に見てきたものまで影響しています。
つまり、人の視点を理解するとは、単に「同じものを見る」だけではありません。
その人が、どこを見て、何を感じ、それを過去の何とつなげているのかを見ることなのです。
「何が好き?」だけでは足りない
誰かと仲良くなりたいとき、「趣味は何ですか?」「休日は何をしているんですか?」と聞くことがあります。
もちろん、それも悪くありません。
ただ、本当に相手のことを知りたいなら、そこで終わらせないほうがいい。
「映画が好きです」と言われたら、「どんな映画ですか?」と聞く。
「最近は○○を観ました」と言われたら、「どこがよかったですか?」と聞いてみる。
さらに、「似た映画で好きなものってあります?」と聞いてみる。
すると、少しずつその人の「視点」が見えてきます。
「どこが好きなのか」を聞くと、その人の目の付けどころがわかる。
さらに「ほかの何とつながっているのか」を聞くと、点と点が線になっていきます。
その線こそが、その人の頭の中にあるネットワークなのです。
距離が縮まるとは「共通理解」が増えること
仲のいい人同士には、「説明しなくてもわかること」がたくさんあります。
「あの店、また行きたいね」
「あのときのアレね」
「あの人、またやってるよ」
これだけで通じます。第三者が聞いたら、「どの店?」「アレって何?」「あの人って誰?」となるでしょう。
でも、本人たちにはわかる。
なぜなら、同じものを見た経験があるからです。
人との距離が近い状態とは、こういう「アレ」「コレ」で通じるものが多い状態とも言えます。
だから、人と距離を縮めたければ、いきなり自分のことを深く理解してもらおうとするより、相手と共有できるものをひとつずつ増やしていけばいい。
同じ映画を見る。同じ店に行く。相手が好きなものを自分も見てみる。同じ出来事について話してみる。
そうすると、「共通の景色」が少しずつ増えていきます。
そして、その景色について、「自分はこう思った」「私はここが好きだった」と話す。
すると今度は、お互いの考え方まで見えてきます。
スマホを見ているだけでも、人は離れていく
この「共通の景色」は、何もしなければ自然に増えていくわけではありません。
むしろ現代では、意識しなければ減っていく可能性があります。
たとえば、家族で同じリビングにいる。全員がスマホを見ている。物理的には、ものすごく近くにいます。
でも、一人はYouTubeを見ている。一人はInstagramを見ている。一人はゲームをしている。一人はニュースを読んでいる。
全員が「スマホを見ている」という行動は同じでも、見ている世界はバラバラです。
すると、物理的にはずっと一緒にいるのに、いつの間にか、「最近、何を話したらいいかわからない」ということが起こります。
共有している「アレ」「コレ」が減ってしまったからです。
「話が合う人」は、最初から相性がいいとは限らない
「あの人とは話が合う」
「あの人とは話が合わない」
私たちは簡単にそう判断します。
しかし、「話が合う」というのは、性格だけで決まっているわけではないのかもしれません。
同じものをたくさん見ている人とは、当然、話せることが増えます。
反対に、共通して見ているものがほとんどなければ、会話のスタート地点を探すだけでも大変です。
だから、「この人とは合わない」と結論づける前に、「この人が見ているものを、自分はどれだけ知っているだろう?」と考えてみてもいいでしょう。
相手の好きなものをひとつ見てみる。
相手がよく話す人について知ってみる。
相手が面白いと言っていた作品に触れてみる。
それだけで、それまで見えなかった相手の世界が少し見えることがあります。
「自分をわかってほしい」なら、先に相手を知る
自分をわかってもらうためには、先に相手を理解したほうがいいのです。
意識的に距離を縮める努力をしなければ、話せることも少なくなっていく。
距離を縮めるためには、相手の視点の側に、歩み寄らないといけないのです。
相手の視点に立つことが、コミュニケーションのスタート地点だからです。
自分のことばかり考えていないで、他人のことを理解する。
ずいぶん当たり前の結論にたどり着いてしまいました。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
「相手のことを理解しましょう」
たしかに、当たり前すぎる結論です。
でも、実際のコミュニケーションでは、私たちはその逆をやってしまいます。
「自分」からスタートしてしまうのです。
人との距離を縮めたいなら、スタート地点を逆にしてみる。
「この人は何を見ているんだろう?」
「そのどこを見ているんだろう?」
「それを何とつなげて考えているんだろう?」
そこに少しだけ関心を向ける。
そして、相手の見ている景色を、自分も見てみる。
人との距離を縮める方法は、意外なほどシンプルです。
自分のことをわかってもらおうとする前に、相手の視点の側へ歩いていく。
その一歩から、話せることが増え、「アレ」「コレ」が増え、少しずつ人との距離が縮まっていくのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない――絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




