「話が面白い人」になるには、話術を磨かなければいけない。そう思っている人は多いかもしれません。しかし、もっと大事なのは、相手と共有できる「話の材料」を増やすことです。世代も仕事も違う人と話せる人は、いったい何をしているのでしょうか。本記事では、イラストレーターのヤギワタル氏の書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「話すことがない」のは、話術の問題ではない
初対面の人と2人きりになったとき、何を話せばいいかわからない。
そんな経験はないでしょうか。
仕事が同じなら、仕事の話ができます。共通の知人がいれば、その人の話もできるでしょう。
ところが、年齢も仕事も趣味も違う。住んでいる場所も違う。共通点がほとんど見つからない。
そうなると、「今日は暑いですね」「そうですね」と、天気の話をして終わってしまいます。
こういうとき、「自分は話が下手なんだ」と考えがちです。
しかし、本当にそうでしょうか。
そもそも、相手と自分の間に共有しているものが何もなければ、話題が生まれにくいのは当然です。
逆に言えば、誰とでも話せる人になるには、できるだけ多くの人と「同じもの」を見ておくことが重要なのです。
道ですれちがったり、同じ電車に乗ったりしているにもかかわらず、私たちは、自分の生活に関わりのあることをしている人たちをまったく知らずに生きています。
では、距離の遠い人とはどうやってコミュニケーションをとればいいのでしょう?
ここでも答えは同じ。「同じものを見ておくこと」です。
富士山を知っていれば、富士山について話をすることができます。
富士山はそこにあるだけで、私たちに話題を提供してくれているのです。
歴史的な建造物も話題を提供してくれています。
古い寺や神社を訪れたとき、私は「歴史上の人物も、いま自分が見ているのと同じ景色を見ていたんだ」という感慨にひたることがあります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
ここに、話が面白い人になるための大きなヒントがあります。
「みんなが知っているもの」をたくさん持つ
たとえば、富士山。
日本で暮らしていれば、実際に登ったことがなくても、ほとんどの人がその姿を知っています。
だから、富士山を話題にすると、まったく知らない人同士でも話ができます。
「一度、登ってみたいんですよね」
「私は登りましたよ」
「どうでした?」
ここから会話が始まります。
富士山という「同じもの」を知っているからです。
これは、場所だけではありません。
映画、漫画、スポーツ、ニュース、食べ物、音楽、建築、歴史、流行しているサービス。
多くの人が見たり、聞いたり、経験したりしているものを知っているほど、他人との「接点」は増えていきます。
話が面白い人というと、「面白いエピソードをたくさん持っている人」を想像するかもしれません。
しかし、自分だけが知っている面白い話を100個持っていても、相手がまったく知らない世界の話ばかりなら、会話は一方通行になりがちです。
それよりも、相手も知っているものについて、自分なりの見方を持っている人のほうが会話は広がります。
「あ、それ知ってます」という瞬間が、会話の入口になるからです。
「同じもの」を見れば、昔の人とも会話できる
面白いのは、「同じものを見る」という方法は、いま生きている人とのコミュニケーションだけに使えるわけではないことです。
その評価をどう受け止めるかはともかく、桂離宮がもし取り壊されたり焼失したりしていれば、彼の評価を確かめる方法はなくなってしまいます。
でも、一度でも桂離宮を見たことがあれば、「ああいうのをタウトは『いい』って思ってたんだな」と、彼の考えと見えるものをセットで理解できるのです。
言葉だけで理解しようとするよりも、はるかに理解しやすくなります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
本を読んで、「ブルーノ・タウトは桂離宮を高く評価した」と知る。
知識としては、それで十分かもしれません。
しかし、実際に桂離宮を見た経験があれば違います。
「あの建物のことか」
「あの空間を見て、タウトはそう感じたのか」と、言葉と実物がつながります。
約100年前に生きていた人が見たものを、自分も見る。
すると、その人の言葉が急に具体的になるのです。
これは読書でも同じでしょう。
本をたくさん読んでいるのに、書かれていることがなかなか自分の中に残らない。
そんなときは、言葉だけを追いかけているのかもしれません。
実際の場所を見る。作品を見る。映像を見る。現物を見る。
「このことを言っていたのか」と現実につなげることで、言葉の理解は深くなります。
そして、その経験が次の会話の材料になります。
「知っているもの」が増えるほど、話せる相手も増えていく
だからこそ、普段から自分の興味だけに閉じこもらないことです。
自分の好きな漫画だけを見る。
自分の好きなYouTubeだけを見る。
自分と考えの近い人だけをSNSでフォローする。
もちろん、それ自体が悪いわけではありません。
ただ、それだけでは「同じものを見ている人」の範囲が狭くなっていきます。
世代が違う人と話すなら、その世代が見てきたものを知る。
違う仕事をしている人と話すなら、その業界で当たり前に知られているものを知る。
海外の人と話すなら、世界的に共有されているものを知る。
自分の世界の外側にあるものを見るほど、話せる相手の範囲も広がっていくのです。
世界遺産に登録されているかどうかは関係がありません。
たとえば、1970年の大阪万博で、岡本太郎がデザインした太陽の塔はいまでも残っています。あの塔があるから「あのときの万博は……」と、当時を見た人が子や孫の世代にも語り継ぐことができるのです。
三島由紀夫の小説『金閣寺』がいまだに読まれているとすれば、やはり「あの金閣寺が……」と見てわかるからでしょう。実際には過去と同じものではないとしても、金閣寺が存在して目に見える姿としてそこにある。
だからこそ金閣寺の話を聞いたり読んだりしたときの、理解の度合いが深まるのです。
遺産とは、過去に生きていた人との対話のためのものです。
歴史上の人物と「同じものを見る」からこそ、歴史もよりよく理解できるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より
太陽の塔を見たことがある。
金閣寺を見たことがある。
たったそれだけでも、1970年を生きた人や、三島由紀夫が生きた時代との接点が生まれます。
そして面白いことに、それは今を生きる人との会話にも使えます。
「あそこ行ったことあります?」
「あります」
その一言から、お互いの記憶や知識や感想がつながっていくからです。
面白い話をするより、「話せるもの」を増やそう
誰と話しても「話が面白い人」になるために、必ずしも話術を磨く必要はありません。
オチのあるエピソードを大量に用意する必要もない。
それよりも、たくさんの人と共有できるものを、自分の中に増やしていくことです。
知らない場所に行ってみる。
昔から残っているものを見る。
流行しているものに少し触れてみる。
自分より上の世代が見ていた映画を観る。
若い世代が夢中になっているものを覗いてみる。
そうやって「同じもの」を増やしていく。
すると、初対面の人と話したときにも、「あ、それ知っています」「私も見ました」「どう思いました?」という入口を見つけやすくなります。
話が面白い人とは、ずっと面白いことをしゃべっている人ではありません。
相手との間に「同じもの」を見つけ、そこから話を広げられる人です。
そのためには、まず自分自身がいろいろなものを見ておく。
自分の世界を広げることが、そのまま、話せる人の範囲を広げることになるのです。
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。




