どうすればお金をかけずに、売上や利益をもっと増やせるのか? この切実なお悩みに答えるのが、人気の販促コンサルタント・岡本達彦氏の最新刊『客単価アップ大事典「つい買ってしまう」販促の仕掛け75』(ダイヤモンド社刊)です。同書は、「行動経済学×現場目線」で「つい買いたくなる」販促の仕掛けとは何かを言語化した初の書。本書が提示するのは、「お客様の購買行動そのものを変える設計とは?」です。どうすれば、「利益が残る経営」へと変われるのか? 本連載では、『客単価アップ大事典』に収録しきれなかった事例の中から、現場ですぐに導入でき、成果につながりやすい客単価アップの仕掛けを厳選してご紹介していきます。

なぜオーダー枕店は、購入後の調整を何度でも無料にするのか?Photo: Adobe Stock

無料で何度も直してもらえると、
高額な枕でも安心して買える理由

 オーダー枕店では、頭や首の形、寝る姿勢などを確認し、お客様に合わせて枕の高さを調整します。

 ところが、商品を購入した後も、「高さが合わなければ、何度でも無料で調整します」と案内している店があります。

 店によってサービスの対象や期間は異なりますが、中材を増減して高さを変えたり、つぶれた中材を補充したりするメンテナンスを無料で受けられる商品もあります。

 一度測定して作ったオーダー枕なら、購入した時点で完成しているように思えます。それでも、なぜオーダー枕店は、手間のかかる調整を購入後も無料で続けるのでしょうか。

「無料で何度も対応していたら、店の負担が増えるだけでは?」

 そう思う人もいるでしょう。

 実は、無料調整は、購入した枕を長く使ってもらうためだけのサービスではありません。オーダー枕を購入するお客様が感じる、「高い枕を買っても、自宅で寝たら合わないかもしれない」という不安を購入前に取り除く役割があります。

 さらに、調整のために再来店してもらえば、現在の寝心地や使用している敷き寝具について相談を受けることができます。

 その結果、マットレス、敷き布団、掛け布団など、睡眠環境全体を提案する機会が生まれます。つまり、何度でも無料の高さ調整は、高額な枕を購入する不安を小さくすると同時に、購入後もお客様との接点を作り続ける販促の仕掛けなのです。

店で合わせた高さが、
自宅でも合うとは限らない

 オーダー枕を作る店では、お客様の体型や寝る姿勢などを確認し、実際にベッドへ横になってもらいながら高さを調整します。それでも、店内で作った枕が、自宅でも最初から完全に合うとは限りません。

 理由の一つが、店のマットレスと自宅の敷き寝具の違いです。柔らかいマットレスでは、肩や背中が深く沈みます。硬い敷き布団では、体の沈み込みが小さくなります。体が沈む深さが変われば、頭や首を支えるために必要な枕の高さも変わります。

 店頭でちょうどよい高さに合わせても、自宅のマットレスで寝ると、

「思っていたより高く感じる」
「横向きになると肩が苦しい」
「もう少し低いほうが落ち着く」

 と感じることがあります。

 また、短時間横になった感覚と、一晩眠った後の感覚が同じとは限りません。店頭では楽に感じても、何日か使うと違和感に気づく場合があります。反対に、最初は慣れなくても、しばらく使うことで落ち着くこともあります。

 オーダー枕は、一度の測定だけですべてが決まる商品ではありません。実際の寝室で何日か使い、その結果をもとに微調整していくことで、お客様に合う状態へ近づけていく商品なのです。

 無料調整があれば、お客様は、「店で一度試しただけで、正しい高さを決めなければならない」という不安から解放されます。

 オーダー枕店は、購入時の測定だけを販売しているのではありません。購入後、自宅で使いながら完成度を高めていく過程まで、商品の一部として販売しているのです。

「合わなければ直せる」が、
高額な枕を選びやすくする

 一般的な枕であれば、数千円程度で購入できる商品もあります。

 一方、測定や調整を伴うオーダー枕は、既製品より高額になることがあります。お客様が高額な枕の購入を迷うのは、価格が高いからだけではありません。

「自分に本当に合うか分からない」
「買った直後はよくても、使い続けたら違和感が出るかもしれない」
「合わなかったら、高い買い物が無駄になる」

 という不安があるからです。

 特に枕は、寝心地の好みに個人差があり、商品説明や口コミだけでは自分に合うか判断しにくい商品です。どれだけ丁寧に測定してもらっても、「一回の調整だけで決めてしまってよいのだろうか」という不安は残ります。

 そこで店が、

「購入後に合わなければ、無料で再調整できます」
「使っているうちに高さが変わっても、何度でも調整できます」

 と伝えます。すると、お客様は最初の一回で完璧な枕を選ぶ必要がなくなります。

 購入時に多少迷いが残っていても、「後から直してもらえるなら、購入してみよう」と考えられるようになります。無料調整は、将来提供するサービスですが、その効果は購入前から始まっています。

 実際に無料調整を利用するかどうかにかかわらず、「失敗しても直せる」という安心が、高額なオーダー枕を選ぶ理由になるのです。

枕は、使う人と寝具の変化によって
高さが合わなくなる

 購入直後に合っていた枕でも、ずっと同じ状態で使えるとは限りません。毎日使用していると、中材がつぶれたり、偏ったりして、少しずつ高さが変わることがあります。

 枕だけでなく、下に敷いているマットレスや敷き布団も変化します。長期間使用したマットレスが柔らかくなれば、体の沈み込み方が変わり、それまで合っていた枕の高さが合わなくなる可能性があります。

 また、使う人の状態も一定ではありません。体型が変わったり、寝る姿勢が変わったり、横向きで寝ることが増えたりすることがあります。引っ越しや買い替えによって、敷き寝具そのものが変わる場合もあります。

 つまり、枕の適切な高さは、購入した日に一度決めれば終わるものではありません。枕の中材、敷き寝具、使う人の状態が変われば、その都度調整が必要になることがあります。

 無料メンテナンスがなければ、お客様は違和感が出ても、「調整に料金がかかるなら、もう少し我慢しよう」
「新しい枕を買ったほうがよいのだろうか」と考えるかもしれません。

 一方、無料であれば、「少し低くなった気がするから、一度見てもらおう」と早めに相談しやすくなります。

 店側にとっても、中材が大きく劣化したり、お客様が商品を使わなくなったりする前に対応できます。無料調整は、合わなくなった商品への苦情を減らすためだけではありません。

 枕とお客様の変化に合わせて手を加え、商品を使い続けてもらうための仕組みなのです。

調整で来店すると、
枕以外の問題も見えてくる

 オーダー枕の高さを調整するには、お客様が枕を持って店へ来る必要があります。

 店員は現在の寝心地について、

「仰向けと横向きでは、どちらが多いですか?」
「自宅では、どのようなマットレスを使っていますか?」
「購入した頃と比べて、寝具や体型に変化はありましたか?」

 などを確認します。話を聞いていくと、違和感の原因が枕だけではないこともあります。

 例えば、自宅のマットレスが柔らかくなり、体が以前より深く沈んでいる可能性があります。季節によって掛け布団の重さや寝室の環境が変わり、寝心地に影響している場合もあります。

 お客様は「枕を調整してほしい」と来店していても、相談を通じて、

「敷き布団が古くなっている」
「マットレスの硬さが体に合っていない」
「掛け布団が重く、寝返りしにくい」

 といった別の問題に気づくことがあります。

 そこで店は、枕の高さを無料で直しながら、

「今お使いの敷き寝具に近い硬さで、もう一度試してみましょう」
「マットレスの状態も確認してみませんか?」
「枕と合わせて、こちらの寝具も試してみてください」

 と提案できます。

 無料調整そのものから大きな売上が生まれなくても、再来店によって新しい相談が始まります。

 その結果、枕だけでなく、マットレス、敷き布団、掛け布団、枕カバーなどを提案する機会が生まれるのです。オーダー枕店は、無料調整を行うたびに損をしているのではありません。枕を入口にして、お客様の睡眠環境全体を確認する接点を作っているのです。

無料調整があると、
安い枕との比較から外れやすくなる

 枕そのものだけを比較すると、お客様は価格、素材、硬さ、形などを比べます。市販の枕には安価な商品も多いため、オーダー枕は、「枕一つに、そこまでお金をかける必要があるのか」と比較されやすくなります。

 しかし、購入後も何度でも無料で高さを調整してもらえるとなれば、販売しているものは枕だけではなくなります。

・体型や寝姿勢の確認
・購入時の高さ調整
・自宅で使用した後の再調整
・中材が変化したときのメンテナンス
・寝具や寝心地に関する継続的な相談

 までを含んだ商品になります。

 すると、価格の比較対象も変わります。数千円で購入し、合わなければ買い替える既製品の枕と、一つの枕を何度も調整しながら使い続けるオーダー枕は、同じ基準では比べにくくなります。

 お客様は、「枕の代金」ではなく、「購入後も自分に合わせ続けてもらう代金」として価格を捉えられるようになります。

 さらに、何度か調整を受けて自分に合う状態へ近づけた枕は、ほかの商品へ簡単に替えにくくなります。新しい枕へ替えれば、また最初から高さや寝心地を確かめなければならないからです。

 無料調整は、値引きによって商品を安く見せるのではありません。購入後のサービスを加えることで、枕そのものの価値を高め、価格だけで比較されにくくしているのです。

調整記録が残ると、
店を替える理由が小さくなる

 オーダー枕店では、購入時に測定した体型や高さ、中材の種類、調整内容などを記録している場合があります。再調整するときも、以前の状態と現在の感覚を比べながら、中材を増減できます。

 お客様にとっては、

「自分がどの高さで作ったのか」
「前回どこを調整したのか」
「どのような寝具を使っているのか」

 を店に分かってもらっている状態になります。

 ほかの店へ行けば、体型や寝姿勢、使用している寝具について、最初から説明し直さなければなりません。
しかし、購入した店であれば、これまでの調整内容を踏まえて相談できます。

 そのため、「自分の枕のことを分かっている店に、これからも任せよう」と考えやすくなります。

 そして、長く使った枕が寿命を迎えたときも、これまで調整を受けてきた店が次の購入先になります。

 その結果、

 オーダー枕を購入する
 ↓
 自宅で実際に使用する
 ↓
 違和感や変化があれば無料調整を受ける
 ↓
 寝具全体について相談する
 ↓
 必要に応じて関連商品を購入する
 ↓
 枕の寿命が来たら同じ店で買い替える

 という循環が生まれます。

 オーダー枕店は、商品を購入した日に取引を終わらせるのではありません。無料調整を続けることで、お客様の寝具に関する相談先という立場を長期間確保しているのです。

他のお店でも使える
「購入後も合わせ続ける」設計

・補聴器店
 購入後の聴力や生活環境の変化に合わせて、音量や聞こえ方の調整を一定期間無料にする。購入時に完全に合わせなければならない不安を減らし、定期的な調整から電池、関連用品、将来の買い替えにつなげる。

・眼鏡店
 購入後、実際の生活で生じたずれや耳・鼻への当たりに合わせ、フレームの掛け具合を無料で調整する。再来店時にレンズの傷や視力の変化を確認し、レンズ交換や次の眼鏡を提案できる。

・ゴルフ用品店
 購入したクラブのライ角やシャフトなどの調整相談を、一定期間無料で受け付ける。実際にコースや練習場で使った後の感覚をもとに調整し、ほかのクラブや用品について相談してもらう機会を作る。

まとめ

 オーダー枕店が、購入後の高さ調整を何度でも無料にするのは、購入した枕を長く使ってもらうためだけではありません。

・店頭のマットレスと自宅の敷き寝具では体の沈み込み方が異なるため、実際の寝室で使った後に調整できるようにし
・「自宅で寝て合わなくても無料で直せる」という安心を提供することで、高額なオーダー枕を購入する不安を小さくし
・中材のへたり、敷き寝具や体型の変化などに合わせて調整することで、一度購入した枕を使い続けてもらい
・無料調整による再来店時に寝心地や使用中の寝具について確認し、マットレスや敷き布団などを提案する接点を作り
・枕だけでなく測定、調整、相談まで商品に含めることで、安価な既製品の枕と価格だけで比較されにくくし
・過去の測定内容や調整記録を蓄積することで、「自分の枕を分かっている店」として、関連商品の購入や将来の買い替えまで関係を続ける

 という、購入後もお客様に合わせ続けることで、高額商品の購入と長期的な再来店を生み出す販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。