緑のある屋外で運動する高齢男性写真はイメージです Photo:PIXTA

「腎臓が悪いなら、無理をせず安静に」。かつては、そんな考え方が一般的だった。しかし、腎臓病治療における運動の位置づけは、この四半世紀で大きく変わったという。筆者が急性心筋梗塞を経験した患者41人を対象に行った研究でも、歩数が多い人ほど腎機能の指標が改善する傾向がみられた。なぜ「歩くこと」が腎臓を守ることにつながるのか。※本稿は、医師の上月正博『長生きは腎臓が10割 腎機能を高めて健康寿命を延ばす最高の習慣』(Gakken)の一部を抜粋・編集したものです。

腎臓が悪い人ほど
積極的に歩くべし

 ひと昔前まで、腎臓病を患った人は「自宅で静養してあまり出歩かないでくださいね」とアドバイスされるのが一般的でした。

 しかし、運動が腎機能に良好な効果をもたらすことがわかった今、理想とされる日常の過ごし方はガラリと変わっています。腎臓が悪い人ほど、どんどん歩くべきなのです

 運動を通して腎機能を改善するには、有酸素運動が必要不可欠です。そのなかでもウォーキングは効果が高く、腎臓リハビリテーションでも主役のような存在になっています。

 スタスタ歩くという動作は非常にシンプルですが、得られる効果は実に多彩です。血流の改善などを通して、腎臓病はもちろんのこと、腎機能を悪化させる糖尿病や高血圧、脂質異常症の予防・改善にも役立ちます。

 効果を得るために必要な歩数も、意外と多くはありません。私は、急性心筋梗塞を経験した患者さん41人を対象として、運動量と腎機能の変化の関係性を調べたことがあります。

 その結果、1日に4113歩以上歩いた患者さんは、歩数の増加にともなってeGFR(編集部注/腎臓が血液をろ過する能力の程度を示す推算値)の数値が改善する傾向が見られました

 1日1万歩の半分に満たない歩数でも、効果は得ることができるのです。

高血圧・高血糖から腎臓を守る
運動の意外な効果

 私が腎臓病治療における運動の重要性を訴え始めた頃は、安静第一の考えが揺るぎない常識として君臨していました。

 それから四半世紀ほどの間に常識は大きく転換しました。今や運動療法は主要な治療法として定着し、私が考案した腎臓リハビリテーションも、全国で普及が進んでいます。

 これほどまでの変化が起こったのは、慢性腎臓病のあらゆるステージで運動の効果が現れることが、国内外で次々と報告されたからです。

 2022年には、それまでに報告された数々の研究結果を総合的に解析した論文が発表されています。

 それは、継続して取り組む有酸素運動によって、腎機能や血清クレアチニン、尿たんぱくや血中尿素窒素などの数値を効果的に改善できるという内容でした。

 腎臓は常に大量の血液が流れ込むため、血液の状態に大きく影響されます。高血圧や高血糖を抱えていると、腎臓からすれば“ブラック企業”に身を置いているような状態です。糸球体の毛細血管に過剰な圧がかかり、フィルターの役割を果たしている細胞(タコ足細胞)がはがれ落ちてしまいます。

 これとは正反対の状況を作り出すのが運動です。運動で血流が改善されると、タコ足細胞がはがれ落ちにくくなり、ろ過機能が保護されます。この効果は、健康な腎臓にも弱った腎臓にも等しくもたらされます。運動はまさに、腎機能を守ってくれる“救世主”のような存在なのです。

浮き彫りになった
「安静第一」のデメリット

 運動療法や腎臓リハビリテーションは今でこそ多くの施設で導入されていますが、最初から好意的に迎えられたわけではありませんでした。運動は毒だと考えられていたからです。

 しかし、この常識は現在では大きくくつがえされています。体に毒なのは安静のほうだったのです。

 安静第一が常識だった背景には、それなりの理由がありました。