仕事を任せるなら、その仕事を一番うまくやれる人に任せるのが合理的――多くの人がそう考えているはずです。しかし『人生の経営戦略――自分の人生を自分で考えて生きるための戦略コンセプト20』の著者・山口周さんが紹介する「発達指向型組織」の研究によれば、高収益と人材育成を両立している企業は、仕事の割り振りからしてこの常識と発想が逆だといいます。「その仕事が一番うまい人」に任せない組織が、なぜ勝つのか。「適材適所」の常識を覆す話を聞きました。(構成/小川晶子、ダイヤモンド社書籍編集局)

仕事ができる人ほど「弱さ」を隠さない…高収益企業が実践する意外な人材配置Photo: Adobe Stock

「一番うまくできる人」に任せない組織

――「適材適所」という言葉があるとおり、それぞれの仕事に向いている人を配置すると組織として効率が良いのではないかと思いますが、山口さんはどのように考えますか。

山口周氏(以下、山口):「適材適所」とは、実はけっこうトリッキーな概念なんです。安定的なオペレーションを目指す通常の組織であれば、それぞれの仕事を最も上手にやれる人を配置するのが良いということになりますが、中長期的に見ればそうとも言えません。

――どういうことでしょうか。

山口:ハーバード大学教育学大学院のロバート・キーガン教授らが提唱している「発達指向型組織」というコンセプトが、その理由を説明してくれます。

彼らは高収益性と人材育成の両立を果たしている企業を研究し、それらの企業が成人発達理論の原則に適合した形で運営されていたことを体系化しました。

最大のポイントは、仕事の割り振りです。通常の組織は、最も安定した成果が出せる人に仕事を任せます。しかし発達指向型組織はその考え方を取りません。なぜなら、その仕事がすでに上手にできるということは、「その仕事を通じて成長する余地が少ない」ことを意味するからです。だから、仕事は「その仕事をやらせることによって最も成長できそうな人」に任せます。

当然、このような割り振りを行えば、組織全体のパフォーマンスは一時的に低下します。しかし、だからこそ人材の成長が促進され、組織全体の人的資本が中長期的に向上し、パフォーマンスも従前より向上します。これが、彼らが高収益と人材の成長を両立できている理由です。

本当の「適材適所」とは何か

――得意なことを任され続けるのは、本人にとって悪いことではないと思っていたのですが、成長が頭打ちになってしまうおそれがあるわけですね。

山口:そうなんです。それぞれの仕事を最も上手にやれる人を配置し続けると、その人の成長ポテンシャルを引き出せません。中長期的には組織を停滞させる要因になります。

いま日本ではエンゲージメントの低さが大きな問題になっていますが、各種調査は、エンゲージメントを高める最も重要な要素のひとつとして「成長実感の有無」を挙げています。日々の仕事を通じて自分が成長できているという実感が、仕事へのエンゲージメントを形成します。そういう意味でも、その仕事をもっともうまくやれる人をそれぞれの仕事に配置するという考え方は問題が大きいんです。

あらためて言うと、発達指向型組織における「適材適所」は、「その仕事をやらせることによって最も成長できそうな人を配置する」ということです。

「弱さ」は隠すものではなく、資源である

――成長の余地があるということは、現時点では苦手なことや不慣れなことですよね。あまり人に知られたくないという気持ちも出てきそうです。

山口:そうでしょうね。通常の組織で「弱さ」は、できるだけ見せてはならないもの、周囲に知られてはならないものと考えられています。一方、発達指向型組織では、弱さは「機会」として考えられている。その弱さを埋めることで、本人も組織も成長できるからです。

私たちは弱さをネガティブに捉えて隠そうとしがちです。そして逆に強さをデモンストレーションできる場を求めて、弱さが露呈しかねない不慣れな仕事や難しいプロジェクトを避けてしまいます。短期的にはそれで有能さをアピールできるかもしれませんが、中長期的には非常に難しい状況に陥ります。そんなことを繰り返している限り、その人の学習と成長は停滞してしまうからです。

得意な仕事ばかりを任されることに物足りなさを感じているなら、それは弱さを見せてもいい場所を探すタイミングなのかもしれません。