ハラスメントはなぜなくならないのか。2万人をみてきた組織開発コンサルタントで『組織の違和感』の著者である勅使川原真衣氏が、実際に職場に分け入って考えた、組織変革のコツを伝えます。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)
食い違う主張
パワハラの話になると、しばしば不思議なことが起こります。
告発した側は、「あれは明らかにハラスメントでした」「ひどかった」と振り返る。
しかし一方で、言った側は本気で驚いているのです。
「そんなつもりはなかった」
「通常の指導です」
「本人のためを思って言った」
この食い違いを見ていると、「どちらかが嘘をついているのでは」と思うかもしれません。
しかし真相は、もっと違うときがあります。
自分の普通が当てはまらない
それは、同じ出来事でも、立場が違えば見えているものがまるで違うからです。
たとえば、職場で上司が部下に強い口調で注意したとします。
上司にとっては、「今後のミスを減らすために濁さず伝えた」という使命感があったかもしれません。
しかし部下にとっては、「みんなの前で否定された」「逆らえない相手から強く責められた」という出来事になっているかもしれない。
ここで重要なのは、上司の意図と、部下が受けた影響は同じではないということです。
「傷つけるつもりはなかった」ことと、「相手が傷つかなかった」ことは別です。
人は、自分の行動を自分の意図から判断しやすいものですが、「成長してほしかった」「期待していた」「チームのため」などといった理由があるときほど、「自分は間違ったことをしていない」と感じやすいものです。
一方で、受け手が見ているのは、その人の頭の中にある意図ではありません。
実際に言われた言葉や、声の強さ、その場の空気、周囲の視線です。
さらに、職場には立場の差(権力勾配)があります。
上司にとっては軽いひと言でも、部下にとっては評価や配置に影響する相手からの言葉になる。
「嫌なら言ってくれればよかったのに」というのは、はっきり言ってズレているのです。
これは、誰が善人で誰が悪人かという話ではなく、人と人との関係性の話です。
同じ言葉でも、誰が誰に言ったかによって意味は変わる。同僚からの「もう少し頑張ろう」は励ましに聞こえても、評価権を持つ上司から何度も言われれば、強いプレッシャーになるかもしれません。
さらに厄介なのは、本人にとってそれが「普通」「当たり前」になっている場合です。
自分も若い頃に厳しく指導された。それで成長できたと思っている。
そういった場合、本人の中ではまったく悪気のない「自分も通ってきた道」の繰り返しの行動でしょう。
しかし、相手は当時の自分ではありません。違う時代、違う環境、違う関係性の中で、相手が同じように受け止めてくれるはずはないのです。
「悪気があったか」を問わない
だから、パワハラを防ぐために必要なのは、「そんなつもりはなかった」で終わらせないことです。
相手はどう受け取ったのか。
自分との立場の差はどれくらいあるのか。
同じ言い方を繰り返すことで、相手の行動が萎縮していないか。
そうしたことを冷静に観察する必要があります。
強く言わなければ伝わらない、という思い込みを手放し、決めつけずに相手を見る。
これは、指導をやめるということではありません。
相手に届く形に、伝え方を変えるということです。
大切なのは「悪気があったか」だけを問うことではありません。自分の正しさから一度離れて、相手にはどう見えていたのかを考えること。
その視点がなければ、善意の指導も、いつの間にか誰かを追い詰めるものに変わってしまうのです。
忙しいリーダーに、効果のあることだけ

「好き嫌い」や「やる気」、
「あうんの呼吸」に頼らず
組織を機能させるための具体策!
対話より先に、やるべきことがある。
「大丈夫です」のひとことでモヤッとしたとき、
待ちの姿勢ばかりの部下に自走してもらうにはどうしたらいいのか、
スタンドプレーが多い部下に「チームで仕事をしよう」と伝えるための効果的な伝え方は?……
ビジネスの現場に尽きないコミュニケーションの悩みを、「マネジメント」のスキルとして、「3段階」に分けて打ち手を授けるのが本書です。
まずは土台となる「観察」のスキルを紹介。ここでは、違和感に着目するというユニークな手法をとります。
そして、「自分を知る」「相手を知る」「組み合わせる」の3段階で、関係性から組織の最適解を導き出します。
自分と相手の「持ち味」を知り、
組織をつなぎ直すための一手を
この3段階を経て、違和感を乗り越えるための伝え方や振る舞い方を具体例とともに紹介します。
スキルといっても、難しいものではありません。「あれ、今なんか変だったな」という気づきを、手がかりにつかむこと。
さらに本書では、「持ち味」を知るためのいくつかの診断も掲載。すぐにチームに実装できるような作りにしています。
事前に特別な準備や学習はまったく不要。やるべきことが明確になり、現場のもやもやがクリアになります。
いつでも「今ここ」での気づきから組織を改善できる。行き詰まった状態を打開する新鮮な方策が詰まった、忙しいリーダーの支えになる一冊です。

本書の内容
はじめに
ギリギリな組織の頼みの綱は
人それぞれが「正しさ」を生きている
「持ち味」の組み合わせと「解釈」のクセ
第1章 違和感とは何か? ―― 「決めつけ」が横行する現場で
観察の達人!? コナンくん
仕事に本音はいらない
「なんか変な感じ……」の正体
人はみな「違う色のメガネ」をかけている
「職場のすれ違い」は決めつけから生まれる
とにかくみんな疲れている
すべてのコミュニケーションの基本となる「観察」の3ステップ
第2章 「自分を知る」 ―― 違和感に気づくと「自分」がわかる
自分の本音がわからない
変えられない性質は確かにある
手がかりは「どうしてもとりつくろえない瞬間」
「わかってほしかった」は「解釈のクセ」が生み出している
「自分が知らない自分」はスマホが教えてくれる
第3章 次に、「相手を知る」 ―― 人間関係の違和感から「相性」を知る
「伝える」の前に「見る」がある
「言わなくてもわかるでしょ」はマネジメントの怠慢
相手の何を「見る」のか? ―― ソーシャルスタイルの4類型
「他者の合理性」を知るヒント
「人それぞれ」では話が進まない
第4章 そのうえで、「組み合わせる」 ―― 違和感を役立て最高の組織をつくる
「今いるメンバー」で最高のチームをつくる
「好き嫌い」より「相性」を考える
それは「評価」ではなく「評判」です
「自分でやったほうが早い病」への処方せん
「似た者同士」がうまくいくとは限らない
職場は「ドレッシング状態」にならなくていい
個人と組織のサンドイッチ作戦
第5章 違和感を乗り越えるための話し方・振る舞い方
役割の実行を後押しする「面談」「相談」「雑談」「対話」
「大丈夫です」の複雑さ
「よかれと思って」が残念なワケ
待ちの姿勢ばかりの部下に「自走してほしい」と伝えたい
スタンドプレーが多い部下に「チームで仕事をしよう」と伝えたい
コミュ力が高い人の「真の使命」は、相手に合った手段を選ぶこと
危うい場面で役に立つ「否定しない技術」
会議時間を短縮すれば「生産性」が高まるのか?
「困っている人」は「決めつけていない人」
第6章 「いてくれてありがとね」から始める組織改革
「いい人材がいない」と嘆く人は組織の価値を見落としている
「重すぎない信頼関係」のススメ
「健全に疑う」のススメ
100点を取ってきた子どもに「偉いね」と言ってはいけない理由
100%わかり合うことは無理、それでも「訂正」し合うことはできる
「自分のまま働く」ために
解説 ―― 坂井風太