考えてみれば、我々がソフトウェアを買おうと思うきっかけも、「新しく出た○○はすごい!」と大騒ぎしている人の肩越しに操作画面を覗き興味を持ったから、ということはよくある。ヒューストンの動画は、まさにそれだった(注2)。

 IT起業家のエリック・リースは、著書『リーン・スタートアップ』でヒューストンの話に触れている。

 実際の操作をシミュレーションした、ごく平凡でシンプルな3分間のデモ動画だったが、ターゲットのアーリーアダプターに強く訴える作りになっていた。ヒューストン自身のナレーションに合わせて、画面上のマウスが動き出し、ファイル同期などの操作が行われる。実際によく見ていないと気がつかないのだが、動いているファイルの数々には、アーリーアダプターたちがよろこびそうな、わかる人だけにわかるジョークがちりばめられていた(注3)。

 結果は圧倒的だった。「何十万という人がウェブサイトにアクセスしてくれました」とヒューストンは振り返る。「ベータ版の予約登録者数も、文字通りほぼ一晩で5000人から7万5000人に増えたんです。本当にすごい勢いでした(注4)」

 やはり人々はヒューストンのサービスを待っていたのだ。彼はその後資金を調達し、自信を持って本格的な開発に乗り出すことができた。アーリーアダプターたちとのつながりもでき、実践的な知識を得て、サービスの改良もできた。これこそ、リーン・スタートアップ(編集部注/最低限のコストと時間で試作品を作り、顧客の反応を見ながら改良を進めていく手法)のあるべき姿だ。

ユーザーを開発に巻き込み
平均利益は8倍超に

 組織内でリーン・スタートアップに似た手法をとっている革新的企業もある。世界有数の複合企業である3M(スリーエム)は、以前、商品開発担当チームの中だけでアイデアを出し合っていた。ブレインストーミングを繰り返し、その後完成品を仕上げてから、エンドユーザーに公開し反応を見ていた。このアプローチは、理屈に適ってはいたものの、なにかと時間がかかりすぎた。

(注2)https://www.youtube.com/watch?v=vY3OtMBCEKY(現在閲覧不可)

(注3)Eric Ries, The Lean Startup:How Constant Innovation Creates Radically Successful Businesses (Portfolio Penguin, 2011).(『リーン・スタートアップ――ムダのない起業プロセスでイノベーションを生みだす』エリック・リース著、井口耕二訳、日経BP社、2012年)

(注4)同上。