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ユニリーバが噴霧ノズルの改良でたどり着いたのは、完璧な答えを最初から求めるのではなく、小さな失敗を何度も重ねる方法だった。試行錯誤から最適解を生み出す仕組みとは。※本稿は、コラムニストのマシュー・サイド著、有枝 春訳『失敗の科学 成長する組織の条件』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・編集したものです。
目詰まりしないノズルの
開発に挑んだユニリーバ
ユニリーバ(洗剤・ヘアケア用品などの大手メーカー)はある問題を抱えていた。同社はイングランド北西部リバプール近郊にある自社工場で、洗濯用の粉末洗剤を製造していた。
製造方法は業界で一般的に用いられている方法で、特に変わったところはない。液状の洗剤原料を超高圧で噴霧すると、あっという間に乾燥して粉末状になる。できあがった粉末洗剤はそのままタンクに集められ、肌にやさしい成分などさまざまな材料が添加される。そして商品名が大きく書かれた箱にパッケージされ、結構な値段が付けられて商品棚に並ぶ。
なかなかおいしいビジネスだ。粉末洗剤の年間売上高は、アメリカ国内だけで現在30億ドル(約3000億円)を超え、いまや一大産業となっている。
しかしユニリーバでは、1970年代当時、高圧噴霧用のノズルに問題を抱えていた。
その頃リバプール工場に短期間勤め、のちに世界有数の遺伝学者となったスティーブ・ジョーンズによると、問題のノズルはすぐに目が詰まっていたという(注1)。
「まったく厄介なノズルでした。何度も詰まって効率が悪いし、目詰まりのせいで洗剤の粒子の大きさが一定に揃わなかったんです」
ノズルの改良は会社にとって急務だった。メンテナンスに時間をとられるばかりか、製品の質にも関わってくる。
専門家が知恵を絞っても
改善の兆しは見えない
ユニリーバは一流の数学者チームに助けを求めた。当時すでに大企業だった同社は、最高の頭脳を結集する資金に恵まれていた。チームのメンバーはただの数学者ではなく、高圧システムや流体力学などさまざまな化学分析分野のエキスパートでもあり、「相転移」にも詳しかった。相転移とは、物質がある相(液体)から別の相(気体や固体)へと変わるプロセスを指す。
普段、我々が問題解決のために頼るのはこういう人たちだ。こうしたビジネスに限らず、政治などどんな分野でも、最適な解決策を導き出すにはそれ相応の専門知識や技術を備えた人材が必要だ。
数学者チームは相転移に関わる問題を徹底的に調べ上げ、複雑な計算式を数々導き出した。ミーティングや勉強会も重ねた。そして長期間の研究の末、ひとつの新たなデザインにたどり着いた。
しかし、ことはそんなにうまく運ばない。結果は失敗。新たなデザインでも目詰まりは改善されず、洗剤の粒子は不揃いのままだった。
そこでユニリーバは、ほとんど破れかぶれで自社の生物学者チームに助けを求めた。もちろん、生物学者たちは流体力学についてほとんど何も知らない。相転移にいたっては、それが何なのかさえ見当がつかない。しかし彼らにはもっと価値ある知恵があった。「成功と失敗の関係性」を深く理解していたのである。
生物学者チームはまず、目詰まりするノズルの複製を10個用意し、ひとつずつわずかな変更を加えて、どんな違いが出るかテストしてみた。つまり、あえて「失敗」した。
「ノズルを伸ばしたり、短くしたり、大きな穴や小さな穴を開けたりしました。内側に溝を掘ったこともあったかもしれません」とジョーンズは当時を振り返る。
「しかし、そのうちひとつが小さな結果を出したんです。ほんの1、2%なんですが、オリジナルのノズルより生産性が向上しました」







