国も民間企業も、AWS(アマゾン ウェブ サービス)、Microsoft Azure、GCP(グーグル クラウド プラットフォーム)などのパブリッククラウド活用をこぞって進めている。ところが、実はクラウドを一部捨ててオンプレ(自社保有)に戻る企業も出てきている。米メタ、Dropbox、DMM.com、楽天グループなどがそれだ。「オンプレ」に戻るDX強者の「まさかの逆転の発想」とは?そして、それとは別の文脈で「非パブリッククラウド」陣営として新たに国産クラウドを育成したい経済産業省も暗躍している。特集『企業・銀行・官公庁・ITベンダー・コンサルが大騒ぎ! ヤバいDX 2023』(全13回)の最終回では、クラウドシフトのその「先」への動きを追う。(ダイヤモンド編集部 鈴木洋子)
まさかの「オンプレ回帰」の裏にある
先進企業の深遠な計算とは
「AWSからオンプレミス(自社保有)システムに移行しました」。
「あれ、誤植かな?」と二度見したくなるかもしれないが、間違いではない。
「オンプレを捨てクラウドに移行する」という動きは、これまでITシステムの近代化やDXのための最初の手段とみられてきた。本特集#1、#3でも取り上げてきたが、オンプレのメインフレーム(大型汎用コンピューター)上で運用してきた基幹系システムからの「引っ越し先」としてクラウドはほぼ確実に挙がる選択肢だった。
だが、2021年、DMMはライブ配信サービスに使われるシステムを、逆にAWS上での運用からオンプレに戻したのだ。
DMMは20年、もともとオンプレで運用していたライブ配信システムを、システムの更改とともにAWSに切り替えたという経緯がある。
ところが運用を始めてしばらくすると、通常、オンプレからクラウドに移行するとコストが下がるはずなのに、かなりのコストがかかっていることが分かったという。
ライブ配信システムは、送信者から送られてくるストリーミングデータをリアルタイムで配信するもので、かなりの量のネットワーク帯域(特定の時間内にネットワーク接続を介して送信できるデータの最大容量)を必要とする。オンプレで運用した場合とAWSで運用した場合を比べてシミュレーションしたところ、AWSで運用するとサーバーの費用は抑えられたものの、ネットワーク費用が大幅に上がっていることが分かったのだ。
一方、DMMは自社で多数の自社サービス向けにプライベートクラウドサービスを提供しており、オンプレのデータセンターとインフラエンジニアを抱えていた。
プライベートクラウドとは、限定されたユーザーだけがアクセスできるクラウドのこと。対して、AWS、マイクロソフト、グーグルなどが提供する、誰でもすぐに利用できるのがパブリッククラウドだ。
「自社がプライベートクラウド事業者としてさまざまなサービスを提供しているため、ボリュームディスカウントでかなり安く回線を調達できている。パブリッククラウド、オンプレとも適材適所で使う方針だが、このシステムに関しては、AWSよりオンプレ資産を有効活用した方が適切だという判断をした」(須藤吉公・DMM執行役員ITインフラ本部長)という。
実は、こうした動きはDMMだけではなく、IT強者の各企業でぽつぽつと増えてきているという。
クラウドに移行した後「オンプレ回帰」に動くという、一見世の中の流れに逆行するような現象だが、そこには、先んじてクラウドを利用してきた先駆者ならではの巧みな計算があったのだ。さらに言えば、今後はメリットとデメリットを精査し「オンプレ回帰」ができるかどうかが、企業の成長にも大きく影響していきそうだ。その詳細を次ページで見ていこう。