ノートパソコンにUSBメモリを差し込む手写真はイメージです Photo:PIXTA

今や誰もが知るサービスとなったDropboxも、創業当初は資金調達に難航し、試作品すら満足に作れない状態だった。そんな状況から7万5000人もの予約登録者を集めることに成功した、意外な方法とは。※本稿は、コラムニストのマシュー・サイド著、有枝 春訳『失敗の科学 成長する組織の条件』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を抜粋・編集したものです。

うっかり家にUSBを忘れて
起業のアイデアが生まれる

 マサチューセッツ州に住む若きコンピューター・プログラマー、ドリュー・ヒューストンはある起業のアイデアを抱えていた。いつでもどこからでもファイルをアップロードでき、さまざまなデバイスとの同期も簡単に行える「オンラインのファイル共有サービス」だ。

 彼がそのアイデアを思いついたのは、ボストンからニューヨークへ向かうバスの中だった。ノートパソコンを開けて仕事をしようとしたところ、肝心のデータが入ったUSBメモリが見当たらない。

「たまっている仕事が山ほどあったんですよ。でもあちこちポケットを探しても出てこなくて……家に忘れてきたんだと気づきました」ヒューストンは当時を振り返る。「もうこんなことになるのは絶対イヤだと思いました(注1)」

 彼はむしゃくしゃして、USBメモリがいらなくなるプログラムを作ってやろうとコードを書き始めた。そのうち、きっとこれはいろんな人の役に立つに違いないと気づいた。

「同じようなことに困っていたのは自分だけではありませんでした。サービスを立ち上げればヒットするかもしれないと思ったんです」

投資家に相手にされず
アイデアはお蔵入り寸前に

 しかし、いざベンチャー投資会社をまわってみると、どこからも同じ問題点を指摘された。ファイル共有サービスはもう市場に溢れている、と言うのだ。ヒューストンは反論した。当時、共有サービスの数は確かにあったが、実際にはほとんど利用されていなかった。

 使い勝手が悪くて無駄な時間ばかりかかったからだ。もっと合理的なサービスが生まれれば流れが変わる。しかし、彼の意見は受け入れられなかった。

「最初の投資を得るまでが大変でした。『同じようなサービスはもう山ほどあるじゃないか』と何度聞かされたかしれない。私はそのたびにこう言いました。『ええ、もちろんたくさんあります。でもそのうちひとつでも使ったことはありますか?』。答えはいつも同じでした。『ああ、いや……』」

 賢明なヒューストンは、自分のサービスが「間違いなく当たる」とは思っていなかった。消費者のニーズも、当てにならないことが多い。それでも密かな自信はあり、どうしても新たなサービスを実現させたかった。しかし1年経っても投資は得られない。

「自分のアイデアはこのまま立ち消えになってしまうのか」

 彼はほぼあきらめかけていた。

 彼は、創業資金を集めることができなかった。投資家たちは、彼のアイデアは成功するはずがないと確信していた。

最初から完璧なサービスを
目指す必要はない

 当時のヒューストンには、MVP(編集部注/試作品)を作ることすらほぼ不可能だった。なにしろ彼が考えた共有サービスの売りは「さまざまなデバイスとの同期が簡単にできる」点にあり、実現するには、たとえ試作品といえども膨大な知識と時間を要する。

 しかし、彼は気づいた。MVPで実際にその操作ができる必要はない。完成品の基本的な機能を真似することさえできれば十分だ。根本的なアイデアがユーザーにきちんと伝わりさえすればいい。

 そこで、ヒューストンはデモ動画を作成した。プログラムもソフトウェアも彼のMVPには必要なかった。

(注1)http://www.bbc.co.uk/news/business-27579790