優れたプロダクトが消えてしまう「収益モデル」の落とし穴とは(写真はイメージです) Photo:PIXTA
多くの新規プロダクトが、事業として離陸せずに消えていく。マイクロソフトやグーグルでエンジニアとして活躍し、複数の企業で技術顧問を務める及川卓也氏は、その根源に「価格自体ではなく、価格を支える構造がある」と指摘する。プロダクトの価値を真に顧客に届け、持続的な関係を築くためのプライシングについて、及川氏が解説する。
「単価(価格)×数量(構造)」で
捉えるビジネス戦略
売り上げを構成する要素は極めてシンプルに、「単価(価格)×数量(構造)」という式で表現できます。この基本的な理解が、あらゆるビジネス戦略の出発点となります。
売り上げ向上を目指す多くの企業が、まず単価(価格)の調整、つまり期間限定の割引キャンペーンや、競合より低い価格設定などに頼りがちです。しかし、このような価格戦略は一時的な効果にとどまり、持続的な事業成長にはつながりません。安易な価格競争は、ブランド価値の希薄化や収益性の悪化を招くリスクをもはらんでいます。
真にプロダクト思考に基づき事業の本質的な成長を追求するなら、より深く注力すべきは「数量(構造)」です。ここでいう「構造」とは、単に販売個数や契約件数の増加のみを指すのではありません。顧客が繰り返し利用する「リピート」、既存顧客が新規顧客を紹介する「口コミ」、利用者数が増えるほどにプロダクトの価値が高まる「ネットワーク効果」といった、売り上げが持続的に再現され、自律的に拡大していく「仕組み」そのものを意味します。
具体例を挙げましょう。SaaS(Software as a Service:インターネットを通じてソフトウェアを提供するサービス)におけるサブスクリプションモデルは、この「構造」を象徴するビジネスモデルの一つです。一度獲得した顧客がサービスに継続的に価値を感じて利用し続ける限り、安定的かつ予測可能な収益を生み出します。SaaSにおける「数量」は契約社数だけでなく、料金体系によって多様な側面を持ちます。利用者数に対する課金モデルなら契約企業内での利用拡大が、使用量に対する従量課金モデルなら使用量の増加が売り上げ増につながります。さらに、顧客がサービスを利用する期間も、重要な「数量」の軸です。
こうした「構造」をいかに巧みに設計し、顧客価値の向上と事業価値の最大化が好循環するサイクルを構築できるか。これこそが、現代のビジネスにおける事業の成否を分ける決定的な要素となるのです。







