定年後の行き場を見失う
サラリーマンたち

「定年」を意識し始めると、多くのサラリーマンは2つのタイプに分かれる。

 1つは「もう十分やったから、定年後はラクして楽しく暮らしたい…」というご隠居願望タイプ、もう1つは「第二の人生、これまでとは違うことをやってみたい!」という青い鳥症候群タイプだ。

 前者のような人は往々にして、「これからは思いっきり遊べる」と考えているようだが、いざそのときになると、何がしたいのか、何をすればいいのかわからない。

 会社人間だったから、とくに趣味といえるものもない。かくして、毎日家でゴロゴロ、濡れ落ち葉と言われるように妻にとってはジャマモノとなりさがる。もっともこれは一昔前の話。いまは、定年後の経済的リスク、再就職の厳しい現実が待っているから、そんなにお気楽ではいられない。

 一方の後者は、童話の『青い鳥』のごとく、理想を求めて夢見るタイプ。「蕎麦の店を出したい」「天然酵母のパン屋になりたい」「ペンションを経営したい」など、これまで長年経験してきた仕事とはまったく別のジャンルでやりがいを見出そうとする。

 成功する場合もあるだろうが、退職金を使い果たしてしまった、妻の理解が得られなくて家庭内に不和が起きるなど、いま身近にある幸せを失うことにもなりかねない。

「青い鳥」は、
その場所にいなかった

 アパレルメーカーに長年勤めてきたSさんは、50歳を過ぎてこれからの生活や収入に不安を感じていた。そんなとき、10坪ほどのセレクトショップを数店舗展開している友人から「誰でも簡単に儲かるよ。俺がサポートするからやってみたら」と誘いを受けた。「これなら自分でもできそう!」と思ったSさんは、さっそく会社に辞表を提出し、退職金で自分のショップを開いた。

 ところが、客は1日に数人。一番の原因は店の場所だった。友人の店は駅近だが、出費を抑えようとしたSさんは駅から少し離れた場所に店舗を借りていたのだ。退職金の残りを赤字にあてて何とかしのいだが、それも限界に来ておよそ1年半で、あえなく閉店。そのせいで、妻との関係も悪くなりついには離婚。今は、ハローワークでやっと見つけた保育園の送迎バスの運転手として働く毎日だが、「会社に勤めているうちに、もっと慎重に第二の人生を考えて計画を立てればよかった」と嘆いている。