営業職から一転、
まったく畑の違う左官職人に
アラフィフ世代になると、サラリーマンの多くが「セカンドキャリア」を意識し始める。定年後、どんな仕事に就くのか、これまでのスキルや人脈は生かせるのか、やりがいは感じられるのか、どんな暮らしを送るのか――そんなことを考えると、ふと不安が頭をよぎってしまう。
だが、なかには羨ましいほど充実したセカンドキャリアを描いている人もいる。左官職人として会社に勤める、古田賢治さん(51歳)だ。
古田さんが最初に就職したのは大手自動車販売会社だった。整備士として入社し、2年後に応対の丁寧さや人当たりのよさがかわれて営業に転向、およそ18年勤めた。
「仕事は楽しかったんですが、39歳のとき、体調を崩してしまったんです。医者は『もっと運動するように』って言うんですけど、営業はクルマで移動しますからほとんど歩きません。このまま勤め続けて身体をダメにしたら元も子もないと思って転職を決断しました。そしたら、うまい具合に身体を動かす左官職人を募集していたんです」
営業から一転、左官というまったく違う畑に飛び込み、見習いとして働き始めたのだ。
職人の仕事は、納期に向けて忙しいときもあるが、通常は夕方暗くなったら一日の仕事は終わるし、雨や雪が降った日は休みになることもある。毎日、夜10時、11時まで働いていた営業マン時代に比べ、時間に余裕が持てるようになった古田さんは「写真」の世界に興味を持ち始めた。
「父親の趣味が写真で、カメラを借りたのがきっかけです。ちょうど、デジカメの一眼レフが普及し始めた頃。昔とは違って現像代がかからないから、気軽に楽しめたんですね。初めて本格的に撮ったのが、クリスマスシーズンのイルミネーションでした。自分で言うのもなんですが、ブルッとするほどいい出来で。そこからはまっちゃったんですよ」
その後、ダスキン主催「あなたが喜ぶ顔」フォトコンテスト、福島県観光協会主催「うつくしま・宝発見フォトコンテスト」、横浜ベイブリッジ主催「ウィンターフォトコンテスト」など、立て続けに入選。瞬く間に写真の腕も上がっていった。慣れない左官の仕事に精を出すなか、ちょうどいい気分転換にもなったようだ。