老後に人生を振り返るとき、人は何に一番後悔するのか? 死ぬ間際に人は何を思い出すのか?
本記事では、山口周氏が「決して寝る前に読み始めないこと。一度ページをめくってしまうと止めるのは不可能です。」と絶賛している話題書『極限の漂流118日間』をもとに、「死ぬ間際の思い出」についてライター小川晶子氏が寄稿する。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)
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失敗談こそ面白い
多くの人が語りたいのは「成功談」である一方、
多くの人が知りたいのは「失敗談」だ。
「こんな準備をしていたので、万事うまくいき、成功を収めました」という話は、すごいなとは思うが面白くない。
本人にとっても、人生のハイライトは「失敗談」のほうにあるのではないだろうか。
ハラハラドキドキの壮大な失敗談
全財産をつぎこんだ船を航海中に失って漂流するはめになったイギリス人夫婦の話がある。
「小説のような最高のノンフィクションだ。ページをめくる手が止まらない!」と評されている『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)のハイライトは、圧倒的にこの「航海の失敗」だ。
周到に準備をし、高い理想を持って臨んだはじめての航海で夫婦は遭難してしまった。クジラとの衝突で船に穴が開いてしまったのだ。
船に入ってきた水を出し、穴を塞ごうと頑張ったが無理だった。
そこで救命ラフトとゴムボートで脱出し、広い太平洋を漂流することになったのである。
食べ物も水も足りないうえ、うすいゴム生地一枚で海と隣り合わせの恐怖の中でサバイバルしていく話はハラハラドキドキが止まらない。
「自分がこの状況に置かれたらどうするか」
と考えずにいられないのだ。
全く話題にならなかった2回目の航海
モーリスとマラリンの夫婦は118日間にわたる漂流の末、奇跡的に生還することができた。
この壮大な失敗談はまたたくまに世界中に広がり、ふたりは記者やカメラマンに追い回される人気者となった。
漂流記も出版された。出版記念パーティがロンドンで開かれ、その後パリでも開かれたというからすごい。さらには、ニューヨークの出版社が「次の航海記を出さないか」と声をかけてきたのである。
ところが、2回目の航海は話題にならなかった。
順調に成功したからだ。本は出版されたが、すぐに消えていった。
モーリスにはそこのところがよくわかっていなかった。ふたりが万事つつがなくニュージーランドに到着していたら、誰も本を書いてほしいなどと頼んでこなかっただろう。計画通りうまくいった冒険など誰も読みたがらないのである。
――『極限の漂流118日間』より
死ぬ間際の思い出・ベスト1
晩年のモーリスは、人生を振り返って本一冊分の文章を書いている。
ただし、子ども時代や学校時代、ひとり暮らし時代のことはほとんど何も書いていない。モーリスが書きたかったのは、海での大冒険だった。
とくにあの漂流――壮大な失敗と、それを夫婦で乗り越えたことである。
なにものにも代えがたい経験が「確かに生きていた」という実感を与えてくれる。
失敗と、それを乗り越えたことに人生のハイライトがあるのだ。








