よく「すぐ決断できるリーダーが優秀だ」といわれる。だが、これは本当なのか?
本記事では、山口周氏に「決して寝る前に読み始めないこと。一度ページをめくってしまうと止めるのは不可能です。」と絶賛され、日経新聞、週刊現代などの書評で話題となっている『極限の漂流118日間』をもとに、「リーダー失格の基準」についてライター小川晶子氏が寄稿する。(構成/ダイヤモンド社・寺田庸二)

決断できないリーダーはリーダー失格なのか? すぐ決断するリーダーと優柔不断なリーダー、どっちがいい?Photo: Adobe Stock

リーダーの決断

 想定外のことが起きたとき、リーダーはどうすべきなのか?
 まったく先が見えない中、チームの命運を背負って決断をしなければならない。
 メンバーより視座が高く、客観的に物事が見えているからこそ、決断が怖いということはあるだろう。
 どうしても決断が難しいときは、どうしたらいいのだろうか。

太平洋で遭難直後の難問

 1970年代、イギリス人夫婦が太平洋で遭難し、118日間も漂流したという事件があった。
 極限の状況でのサバイバルと、ふたりの人生について描いたノンフィクションが『極限の漂流118日間』(ソフィー・エルムハースト著/村井章子訳)だ。

 夫モーリスと妻マラリンはガラパゴス諸島を目指していたが、クジラと衝突したことで船に穴が開き、小さな救命ラフトとゴムボートで脱出。
 大海原にふたりきりで、食料も飲み水もわずかしかないという最悪の状況に陥ってしまった。
 船長のモーリスは、リーダーとしてどうすべきか、考えなければならなかった。

ボートにはオールがある、だから漕ぐことができる、とモーリスは考えた。一日一五キロ南へ向かって漕いだら、そのうちガラパゴスと同じ緯度に到達できるかもしれない。
ただ、ラフトを曳航して一日一五キロ漕ぎ進められるのか、彼には自信が持てなかった。切り離すべきだろうか。だがボートには日除けも何もない。ボートが万一沈んだらすべてを失うことになる。

――『極限の漂流118日間』より

 ものすごく難しい問題である。
 私がモーリスの立場でもきっと同じように悩むと思う。少しでも行動して状況を好転させたいが、万一の場合のことも考えなければならない。
 あなたなら、どう考えるだろうか。

決断できないのはリーダー「失格」なのか?

 モーリスは自分には決められないと、考えたことを素直にマラリンに話した。
 するとマラリンはすぐさま自信を持って決断した。

「漕ぐのは夜しかない。日中の暑さの中で漕ぐのは不可能だから」

 2時間交代で漕ぐこと、今夜から始めると、キッパリ言うのだった。

この瞬間に自分のキャプテンシーが終わったことをモーリスは悟った。
彼がリーダーだという見せかけすら、もはや吹き飛んでしまった。

――『極限の漂流118日間』より

 確かにマラリンはすごい。とにかく前を見て行動するタイプだ。
 ふたりが生き延びることができたのはマラリンのおかげだと、モーリスものちに語っている。

 しかし、モーリスがリーダーとしてまるでダメだったわけではないと思う。
 自分に見えていること、今後想定されるリスクなどを包み隠さず話した。
 チームメンバーであるマラリンを信頼し、マラリンの言葉を尊重した。
 それは何も悪いことではないはずだ。
 自分一人で抱えこみ、何も決断できないままでいたり、決断してもチームが険悪になったりすればそれこそ最悪である。

メンバーを尊重するリーダー

 結果的に、夜にボートを漕ぐというのはうまくいかなかった。
 モーリスは「漕ぐのをやめる」という決断をすることになる。
 これも必要なプロセスだったことだろう。やってみなければわからないというのは本当なのだから。
 モーリスは、メンバーを尊重するリーダーだった。だからこそサバイバルに成功したと言うこともできるのではないだろうか。
 本書はリーダーの役割や信頼についても深く考えさせてくれる。