気鋭のベンチャーキャピタリストによる連載の第3回。今回からいよいよ「戦略」の本論に入ります。まずはスタートアップの存在意義とも言える「ビジョン」から。その必要条件と具体的な決め方までを解説します。
“ラーメン代稼ぎ”の罠
自らの想いを実現し、世の中を変える大冒険に漕ぎ出そうとするとき、どこを目指すのかのゴールを設定することが大切です。このゴール、すなわちどのようなビジョンをもっているかこそが、会社、事業の長期的な命運を定めると言っても過言ではありません。ビジョンがないままでは、世の中の流行りに飛び乗り続けて、目移りし続け結局何をやっても大成しないという事態に陥ってしまったり、最近スタートアップ界隈で使わる表現を使うと「ラーメン代稼ぎ」(短期的に食っていくための事業運営)に終始する中小企業に終わってしまったりする罠に陥ってしまいます。
2000年ごろ、i-mode時代にCP(コンテンツプロバイダー:携帯上でユーザにコンテンツを提供する事業)があらゆるジャンルのコンテンツにバラバラと手を出し、CP市場そのものが行き詰まりを見せると2010年ごろソーシャルゲームブームに乗っかり、そしてソーシャルゲームで競争が激化し寡占化が進むと今度は「020」(Online to Offline)に手を出し、結局規模化もしなければ、自社の強みもぼやけてしまったスタートアップを多く見かけます。
やり切った結果、先が見込めなくなってしまった事業を一大決心で、自分達が今まで培ってきた強みなり資産が生きる領域にピボット(Pivot:事業転換)するのは、それはそれでアリな戦略オプションです。ただし、ピボットするにしても、自分達のビジョンに長期的に繋がる、よって結局は今までの事業となんらかの関連性があり、結果的に自分達が培ってきた強みや資産が生きる領域にピボットするのが正しい方向転換の姿です。
軽い気持ちでただ市場が盛り上がっているからとある事業に手を出し、そして競争が厳しくなってきたからと言ってやりきってもいないのに、逃げで次の事業に手を出すのとは大きく違います。