ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、「仕事ができない」という言葉。あの一語を、どう扱えばいいのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局、イラスト/武者小路晶子)

仕事ができる人とできない人

「できない」の中身は、全部違う

――なちゅ。さんは、本書で、「仕事ができない」について、もっと解像度を上げたほうがいいと伝えています。

なちゅ。:はい。職場で「向こうの担当者がマジで仕事できない」「今度の新人のできなさがやばい」「仕事のできない上司が」。これらは、よく聞く愚痴ですよね。

私自身、長年職場では「仕事ができない人」として生きてきました。20代の頃は「今日もやらかすかもしれない」と仕事に行くのが怖かったのを今でも覚えています。

でも、ある時気づいたんです。多くの職場で言われている「仕事ができない」の中身って、全部違うよな、と。

上司に向けられているのはマネジメント力の話で、新人に向けられているのは覚える早さや姿勢の話。ホウレンソウの話のこともあれば、展開力の話のこともある。

中身がバラバラなのに、世の中はそれを「仕事ができない」の一語に潰して、ジャッジして、怒っているわけです。

全部できている人は、いない

――書籍では「仕事ができない」の中身を分析して、リストにすることをすすめていますよね。

なちゅ。:決断が速い、作業が正確、コミュニケーションがうまい、逃げない。記憶力が弱い、作業が遅い、人に振れない、締切が守れない。

こういう項目をリストにして、そのうえで、それぞれの裏面を考えます。

――リストにすると、どう変わりますか。

なちゅ。:解像度が上がって、2つのことが見えてきます。

まず、「全部できている人は、いない」ということ。仕事ができるとされているあの人も、束のどれかは欠けています。欠けたまま、得意で補って、フォローされて回っている。それがコミュニティの実態なんですね。

もうひとつは、「能力は多面的で、表裏一体」だということです。

決断の速い上司は、スピードが重視される場面では「頼もしい」ですが、慎重さが重視される場面では、確認を飛ばして事故る可能性もある。「慎重で正確」な人は、締切ギリギリの場面では「遅い」と言われることもある。

同じ能力なのに、場面によって評価がひっくり返るんです。

「自分で自分を責めてしまう」にも効く

――まわりへの見方も変わりますか。

なちゅ。:まず、職場での人への「ブチ切れ」が減ります。「あの人はダメだ」ではなく、「あの能力が、この場面では裏目に出たな」と構造で捉えられるようになるので。

ジャッジではなく、分解できるようになるんです。

――同じことが「自分」に対しても効くそうですね。

なちゅ:はい。発達障害の人は(私も含めて)自分を責めがちなんですね。でも、あなたに向けられる「仕事ができない」も、同じ雑さで言われている、ということに気づいて欲しいと思います。

誰かの雑なジャッジは、あなたの人間性全体を測ってなどいません。どれかの能力の、どれかの場面の話をしているだけ。丸ごと飲み込む必要はないんです。

そもそも「仕事ができる」という一枚岩の能力も、存在しません。同様に「仕事ができない」という状態も、一言で伝えられるものではない。

発達障害でなくても、仕事ができない人は山ほどいます。だから「あの人は仕事ができない」「できる」と見聞きしたら、中身をバラしてみてほしいんです。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。