「もう一度働きたい」。そう決意した知人は、再出発に向けて情報を集め始めた。
しかし、たった30分のネット検索で、その決意は揺らいでしまう。前へ進むために始めたはずの情報収集が、なぜか将来への不安を膨らませる結果になってしまったのである。
今回も著述家でADHD当事者でもある小鳥遊(たかなし)さんに、実体験をもとに寄稿いただいた。(ダイヤモンド社書籍編集局)
※現在、正式な診断名は「発達障害」から「神経発達症」へ変更になっていますが、この連載では広く知られている「発達障害」という表現を用います。
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働きたいのに、最初の一歩が踏み出せない
以前、知人から「障害者手帳を取得すべきかどうか迷っている」と相談を受けたことがあります。
その知人は、発達障害の特性があり、特性への配慮を受けながら働く障害者雇用を考えていました。
そのためには、障害者手帳の取得が必要ではないかと考えていました。
もともと明るく快活な人柄で、接客業のアルバイトではお客さんに親しまれており、仕事にやりがいを感じながら、充実した日々を送っていました。
しかし、体調を崩し、しばらく仕事を休んでいました。
体調が安定してきたので、まずは配慮を受けられる環境で仕事を始め、少しずつ働くことに慣れていきたいと考え始めていたようです。
ところが、知人がインターネットで30分ほど調べたところ、
「障害者手帳を取ると保険に入れなくなる」
「入れたとしても、保険料の高い保険しか選べない」
「住宅ローンが組めなくなる」
「住宅ローンを組む際に関わる団体信用生命保険に入れない」
といった情報が、次々と出てきたそうです。
「将来は自分の家を持ちたい」
そんな希望を知人は抱いていました。
働くために手帳を取得したい気持ちと、手帳を取得することで将来の選択肢が狭まるのではないかという不安との間で、身動きが取れなくなってしまったのです。
「将来のことを考えたら、手帳は取らない方が良いのかもしれない」
「でも、今は特性に配慮してもらって働き始めたい」
「いったいどうすればいいんだろう」
知人は、再出発しようとするそのスタート地点で、いきなり袋小路に入り込んでしまったようでした。自分の将来を真剣に考えて調べたからこそ、かえって不安が大きくなり、最初の一歩を踏み出せなくなっていたのです。
その姿を見て、「発達障害があると保険に入れない」といった強い言葉が、十分な根拠や説明もないまま広がっていることにも、やるせなさを覚えました。
目を引く断定的な情報によって、誰かが大切な人生の選択をあきらめてしまうとしたら、それはとても悲しいことだと思います。
せっかく将来に希望を持とうとしているのに、みすみすその可能性を潰したくない。
知人が話す様子を見て、心からそう思いました。
不安なときこそ、選択肢を探してみる
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』には、こんな箇所があります。
そんなことがわかり始めた中で、3つ目の衝撃を受けました。発達障害と保険に関するネット上の記事が、間違いばかりだったのです。例えば、
・発達障害になると保険に一切入れなくなる
・緩和型しか入れなくなる
・保険屋さんに発達障害で入れる保険はないと言われた
・障害者手帳があると保険に入れなくなるから、手帳は取得してはいけない
など。ちゃんと調べれば健康な人と同じ保険料で入れる保険が見つかることもあるのに、ネットやSNSでは断定的な記事や不確かな発信があまりに多かったのです。
団体信用生命保険が絡んでくる住宅ローンについても同じく、間違った情報が非常に多くありました。発達障害の診断があると住宅ローンが組めなくなる、精神疾患は団体信用生命保険が使えない、などです。
そして間違った情報を信じた人が間違ったまま発信して、その情報をまた別の人が信じる……という負の連鎖が起こっていたのです。
『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』(P203)
私は知人に、
「ネットで見つけた情報だけで結論を出さず、保険や住宅ローンについて実際に扱っている専門家に相談してみてはどうか」
と伝えました。
誰が書いたのか、どのような根拠があるのか分からない情報を自らの人生設計の前提にしてはいけない、と思ったのです。
私自身、本書を読んでいたため、発達障害の診断があるからといって、保険に入れないと一律に決まるわけではないことを知っていました。
「緩和型」と呼ばれる保険も、一般に保険料が高いとされますが、その一点だけで最初から避けるべきとは限りません。保険料や保障内容を、その人の暮らし方や働き方、思い描いている将来と照らし合わせながら検討することで、自分に合う選択肢が見つかることもあるのではないでしょうか。
本書には、保険や住宅ローンをはじめ、お金に関する具体的な情報が分かりやすくコンパクトにまとめられています。
しかも、この本は情報提供に終わりません。すぐにあきらめて可能性を閉ざすのではなく、必要なときには専門家を頼りながら、自分に合う道を探していく姿勢の大切さも教えてくれるのです。
こうした点から、本書は、お金の不安によって動けなくなっている人にとって、次の一歩を考えるための心強い入口になる一冊と言えます。
(本稿は、『発達障害かもだけど、お金のこと ちゃんとしたい人の本』の発売を記念したオリジナル記事です)






