ADHD(注意欠如多動症)の当事者で、ASD(自閉スペクトラム症)とADHDの2人の娘さんをもつなちゅ。さん。新刊『ADHDの母が伝えたい 生きづらい女の子が覚えておきたいこと』では、子どもから大人まで一生使える具体的な対応策を伝えている。今回のテーマは、職場の人間関係。怖さを減らすために、何を見ればいいのか。著者に話を聞いた。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

職場の人間関係がうまい人がやっている習慣・ベスト1Photo: Adobe Stock

怖さの正体は、「予測できない」こと

――20代の頃、仕事が嫌いだったそうですね。

なちゅ。:大嫌いでした。私は仕事ができない。職場の人間関係が怖い。今日もやらかすかもしれない、怒られるかもしれない、と。

でも、あるときこの怖さの正体に気づいたんです。「相手の反応が、予測できないから」だと。

――やらかすこと自体が怖いのではない、と。

なちゅ。:やらかしたあと、何が返ってくるかわからない。そこが怖いんですね。だとしたら、返ってくるものがある程度読めるようになれば、怖さは減るはずだと考えました。

習慣ベスト1:「対人ハプニングデータ」を集める

――具体的には、何をしたのでしょう。

なちゅ。:職場の「対人ハプニングデータ」を集めてみることにしました。

自分がやらかした場合は、内容だけでなく、「こう言ったらこう返ってきた」という反応をセットで記録しておきます。同じやらかしでも、人によって反応はまったく違うんですが、その差もデータなんです。

そう思うと、苦痛が少し和らぐんですよ。

――自分が当事者のときだけ、ではないそうですね。

なちゅ。:データ収集のチャンスは、1日中あります。他人が怒られているところ、他人が愚痴を言っているところ、ポジティブな評価。全部が収集の時間です。

自分が渦中にいないぶん、冷静に構造が見える。一番おいしい教材なんですよ。

やるときの作法は、3つ

――観察するときに、気をつけることはありますか。

なちゅ。:3つあります。①意見を言わない、②割って入らない、③安易にジャッジしない。
そして、ただよく見て、眺めて、「なぜそうなったのか」を考える。

集めるのは、自分がやらかして乗り切った場面、同僚が怒られている場面、上司が愚痴を言っている場面、うまく立ち回っている人の立ち回りそのもの。このあたりですね。

――口を出さない、というのが肝でしょうか。

なちゅ。:口を出した瞬間に、自分が当事者になってしまうので。観察者の席に座り続けることが大事です。

人間は、意外と分類できる

――記録を積んでいくと、何が見えてきますか。

なちゅ。:人間は、意外と分類できる、ということですね。

自分が怒られる場面。仕事ができるとされている人の正体と、意外な弱み。立ち居振る舞いのうまさ、下手さ。怒り方、ごまかし方、逃げ方。「ああ、またこのパターンか」と見えるようになってきます。

そうすると、対処を考えられるようになります。初めての事態に毎回ゼロから怯えるのと、「このパターンね」と当たりをつけて動くのとでは、疲れ方がまるで違うので。

職場のいいところは、相手を選べないこと

――そもそも、なぜ職場が観察に向いているのでしょう。

なちゅ。:職場のいいところは、相手を選べないことなんです。

友人は自分で選ぶので、どうしても反応も似たパターンに偏ります。でも職場は相手を選べないぶん、普段なら絶対に出会わないタイプと、強制的に出会える。人間のデータの宝庫なんですよ。

そして、職場は、仕事をする場である以前に、「人間が織りなすコミュニティ」です。コミュニティの中での立ち位置は、自分ひとりを見つめても、絶対にわかりません。

まわりを見て、全体の中に自分を置いてみて、初めて測れるものだと思います。

[著者]
なちゅ。
1980年生まれのワーキングマザー。発達障害(ADHD:注意欠如多動症)当事者。中学生と高校生の娘、そして夫も発達障害の特性を強く持つ。長女の発達障害診断をきっかけに、発達障害やそれに関連する分野の独学を開始。以来15年以上、自らの発達障害や子育てについてXを中心に情報発信を行う。仕事でも、障害福祉分野でマネジメント担当をしながら、個人事業主として講師業やスタートアップのサポートに従事。なかでも、自身の経験を活かした発達障害の親子のケアに力を入れている。

[医療監修]
本田秀夫(ほんだ・ひでお)
医師・信州大学医学部教授
1988年東京大学医学部卒。医学博士。専門は発達精神医学。信州大学医学部子どものこころの発達医学教室 教授。信州大学医学部附属病院子どものこころ診療部 部長。長野県発達障がい情報・支援センター「といろ」センター長。