「ゲーム機は高性能なほど売れる」。そんな“常識”を覆したのが、任天堂のWiiだった。処理速度やグラフィックを競うのではなく、任天堂が目を向けたのは、ゲームに参加してこなかった親や祖父母たちだ。価値の軸を「高性能」から「誰でも参加できる体験」へ変えたことで、ゲーム機の意味そのものを変え、市場を広げていった。では、企業はどうすれば、既存顧客の要望の外側にある「新しい価値」を見つけられるのか。本稿では、書籍『ビジネスメイキング――売上と信頼が積み上がる「仕組みのつくり方」』から、Wiiの事例を通じて「価値転換」の考え方を抜粋して紹介する。
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任天堂のWii(2006年発売)の事例は、価値転換の構造がよく見える例です。ゲーム業界では長く、ハードウェアの性能競争が続いてきました。処理速度、グラフィック、没入感など、価値の軸は、「どれだけ高性能か」でした。その土俵に立っている限り、することは一つです。もっと速く、もっと美しく、もっと強い機械をつくることです。
しかし、任天堂が見たのは、その競争の中にいる人だけではありませんでした。むしろ、ゲームに参加しない人たちでした。家にゲーム機があっても、遊ぶのは子どもが中心。操作が複雑で、はなから自分には関係ないと思っている親や祖父母が多くいました。ゲームに「参加できていない」状態があったのです。
そこで、任天堂が価値を置いたのは、性能ではありませんでした。「誰でも参加できる体験」です。体を動かせば遊べる。複雑な操作がいらない。家族みんなで同じ画面の前に立てる。この瞬間、比較軸が変わります。どちらが高性能かではなく、どちらが参加しやすいか、どちらが家族の時間をつくれるか。そういう軸で受け取られるようになります。価値の置き方が変わることで、ゲーム機の意味そのものが変わったのです。
つまり、任天堂が行ったのはゲーム機の性能を上げることではなく、これまでの価値の外側に置かれていた人を引き込むことでした。
この事例が示しているのは、新しい価値はいまの上位顧客の要望を深掘りするだけでは見つからない場合があるということです。多くの営業は、いまいる顧客の要望を聞き、それに応えようとします。もちろん、それも大事なことです。しかし、それだけでは市場は広がりません。なぜなら、いまいる顧客の要望はいまの価値の枠組みの中でしか出てこないことがほとんどだからです。
本当に大きな価値転換は、「いまの商品やサービスを『自分には関係ない』と感じている人は誰か」を見たときに起きます。高性能を求める人ばかり見ていたら、誰でも参加できる体験という価値は見えてきませんでした。
これと同じことは、営業の現場でも起きます。上位顧客の要望だけを見ていると、本来はもっと広いはずの価値の可能性を見落とします。新しい価値は、比較対象になっていない人や、説明しても意味が伝わらない人、価格が合わず利用しにくい人など、現在の価値から外れている人たちを見たときに見えてきます。これは、単に顧客対象を拡大したわけではありません。価値の定義を広げたのです。







