「早期教育」と聞くと、幼いうちから英語を習わせたり、塾に通わせたりすることを思い浮かべる人も多いのではないだろうか。「そんなに早くから勉強させる必要があるの?」と疑問に思う人もいるだろう。しかし、幼児期の学びが影響するのは、学力だけではないという。5歳までに受けた教育が、その後の人生にも長く影響することが、さまざまな研究からわかってきている。では、「早期教育」を受けた子と受けなかった子では、21歳になったとき、どんな意外な差が表れるのだろうか。『医師が教える 子どもの習慣50の基本』から一部抜粋してお届けする。(ダイヤモンド社書籍編集局)

5歳までに「早期教育」を受けた子、受けなかった子。21歳までに表れる決定的な差とは?【小児科医が解説】Photo: Adobe Stock

先取り学習はいいの? 悪いの?

 先取り学習をやったほうがよいのかは、当クリニックでもよく質問を受けます。結論からいうと、やったほうがよいです。

 子どもが幼いときから楽しく学習することが、子どもの脳・体・心、社会的発達のためによいと結論づける研究が複数あります。ユニセフの記事でも、0~5歳までの乳幼児期に受ける教育とケアが大人になってからもよい影響を与えると述べられています。

 ただ、ここでいう先取り学習とは、英語スクールに通わせるとか、英才教育の塾に行かせるとか、そういうことではありません。文字を学ぶ、体を動かす、楽器に触れるなどして、脳を刺激することを指します。十分、家庭でもできることです。

 子どもの脳は急速に発達します。0~5歳までの期間に脳の9割が発達し、とくに3歳までの環境と介入が脳機能に関わることが示されています。先取り学習を行うことでその子の人生でどれくらいもとがとれるかを計算した研究によると13%と非常に高いことが示されています。これは成長してからいろいろ学ばせるよりも、先取り学習に投資するほうが回収率はよいということです。

 経済学者でノーベル賞受賞者のジェームズ・ヘックマン氏は、先取り学習への投資で子どもたちの脳・体・心の発達が促進されるだけでなく、社会の犯罪も減ると発表しています(1)。

 また、発達特性のある子ども、家庭の事情で十分な教育とケアが受けられないリスクのある子どもにおいてはそれらの影響はさらに大きく、貧困などの社会的に不利な環境にいる子どもも、5歳までに適切な教育を受けることで成人期の脳・体・心の健康によい影響を与えることが比較的高いエビデンスの得られるランダム化研究でも示されています。

先取り学習を受けた子、受けなかった子で違いは出るの?

 身体的な健康についても、5歳までに「質の高い先取り学習」を受けていた子のほうが、そうでない子たちに比べて、21歳の時点での健康レベルが違ったという研究もあります。具体的には、21歳時点で喫煙率やドラッグ使用率が低い、車に乗る際のシートベルト着用率が高い、また30歳時点でうつが少なく、心血管疾患リスクが低く、血圧もより健康的であるという結果です。

 小学校での最初の1年間の学習が16歳まで長期に影響することを示す研究もあります(2)。先取り学習が子どもの生涯の経済状況に作用することも示されています(2)。

 先取り学習のよしあしはいつの時代も議論されていますが、2017年の米国のメタ解析研究でも、先取り学習を受けているほうが学力・成績に、とくに高校生になった時点での学力について、統計学的に有意に影響すると示されています(3)。

 ほかに、米国の政府の機関による研究でも、質の高い先取り学習が有益であることを示すエビデンスをまとめています(4)。
 先取り学習によって基本の読み書きだけでなく、自己コントロール、そしてポジティブリレーションシップ(周りの人たちとよい関係性を築く力)が身につくとしています。

 決して高額な教育プログラムを導入する必要はありませんが、ぜひ、文字を学ぶ、体を動かす、楽器に触れるなどを意識して、毎日を過ごしてみてくださいね。

1 Investing in early childhood care and education yields lifelong benefits. [cited 2026 Jul 31]. Available from: https://www.unesco.org/en/articles/investing-early-childhood-care-and-education-yields-lifelong-benefits
2 Early years education is key to future success in life. [cited 2026 Jul 31]. Available from: https://www.cambridge.org/insight/blog/early-years-education-is-key-to-future-success
3 McCoy DC, Yoshikawa H, Ziol-Guest KM, et al. Impacts of early childhood education on medium- and long-term educational outcomes. Educ Res. 2017;46(8):474-487. doi: 10.3102/0013189X17737739.
4 Children’s Learning and Development Benefits from High-Quality Early Care and Education: A Summary of the Evidence. [cited 2026 Jul 31]. Available from: https://acf.gov/opre/report/childrens-learning-and-development-benefits-high-quality-early-care-and-education
伊藤明子(いとう・みつこ)

赤坂ファミリークリニック院長/小児科医/MD, MPH/BCIA認定ニューロフィードバック認定医
NPO法人Healthy Children, Healthy Lives代表理事。
東京外国語大学卒、帝京大学医学部卒、東京大学大学院医学系研究科修了。医師になる前から同時通訳者として天皇陛下や歴代首相、米国大統領の通訳を務め、現在も医学系会議を中心に活動している。通訳の仕事をしながら2児をもうけたあと、40歳で医学部を受験し、医師に。卓越した英語力を武器に、海外の学術論文から日々最新の情報をアップデートしている。メディア出演も多く、わかりやすい説明と親しみやすい人柄で子どもはもちろん、その親からの信頼も厚い。著書に『医師が教える 子どもの食事 50の基本』(ダイヤモンド社)などがある。