どうすればお金をかけずに、売上や利益をもっと増やせるのか? この切実なお悩みに答えるのが、人気の販促コンサルタント・岡本達彦氏の最新刊『客単価アップ大事典 「つい買ってしまう」販促の仕掛け75』(ダイヤモンド社刊)です。同書は、「行動経済学×現場目線」で「つい買いたくなる」販促の仕掛けとは何かを言語化した初の書。本書が提示するのは、「お客様の購買行動そのものを変える設計とは?」です。どうすれば、「利益が残る経営」へと変われるのか? 本連載では、『客単価アップ大事典』に収録しきれなかった事例の中から、現場ですぐに導入でき、成果につながりやすい客単価アップの仕掛けを厳選してご紹介していきます。

なぜ某航空会社は、空いている上位席を「固定価格」ではなく、お客様に入札させるのか?Photo: Adobe Stock

「あと2万円なら払う」「5万円でも乗りたい」を
航空会社が決めない理由

 某航空会社で海外旅行や出張のためにエコノミークラスの航空券を購入した後、「プレミアムエコノミーへアップグレードしませんか?」という案内が届くことがあります。

 対象となるエコノミークラスの航空券を購入したお客様が、自分で希望額を入札し、出発直前の予約状況や入札額などによって、プレミアムエコノミーやビジネスクラスへアップグレードできる仕組みです。

「上位席が空いているなら、航空会社が追加料金を決めればいいのでは?」と思うかもしれません。

 しかし固定価格では、「2万円なら乗りたい人」「5万円でも乗りたい人」を同じ価格で扱うことになります。

 そこで、「あなたなら、いくら追加すれば上位席に乗りたいですか?」と、お客様自身に金額を決めてもらうのです。

 これは、出発すると価値がなくなる「空いている上位席」を、お客様が感じる価値に合わせて収益化する販売方法なのです。

飛行機の空席は、
出発した瞬間に売れなくなる

 航空会社の商品には、「在庫を翌日に持ち越せない」という特徴があります。洋服や家電なら、今日売れなくても明日販売できます。

 しかし、今日の便の空席を明日売ることはできません。飛行機が出発した瞬間、その座席を販売する機会はなくなります。

 特に上位クラスは、
 ・広い座席
 ・快適な設備
 ・充実したサービス

 など、高い価値を持っています。

 それでも空席なら追加売上はゼロです。

 そこで、すでにエコノミークラスを購入している人の中から、「追加料金を払ってでも上位席に乗りたい人」を探します。新しいお客様を集めるのではなく、すでに搭乗するお客様に、残った上位席をもう一度販売しているのです。

固定価格では、「高すぎる」と「安すぎる」が起きる

 例えば、アップグレード料金を一律5万円にしたとします。「2万円なら払うけれど、5万円ならいい」という人は購入しません。

 反対に、「8万円でもアップグレードしたい」という人がいても、固定価格なら5万円しか受け取れません。

 つまり、高くすれば買う人が減り、安くすれば、もっと払ってもよかった人から得られる売上を逃します。

 そこで一定の価格帯を設定し、「私はここまでなら払います」と、お客様に入札してもらいます。

 つまり航空会社が、「この席はいくらなら売れるか」を予想するのではなく、お客様自身に、「自分にとって、この席はいくらの価値があるか」を示してもらっているのです。

同じ上位席でも、
「払ってもいい金額」は人によって違う

 同じビジネスクラスでも、感じる価値は違います。

 到着後すぐに重要な仕事がある人なら、「高くても、しっかり眠りたい」と思うかもしれません。

 新婚旅行なら、「せっかくだから奮発しよう」と思うかもしれません。

 一方、「移動できれば十分」という人なら、追加料金を払わないでしょう。

 商品は同じでも、お客様の「支払ってもよい金額」は違います。固定価格なら、「買う・買わない」の二択です。

 しかし入札なら、「2万円なら出せる」「3万円ならどうだろう」と、お客様自身が価格と価値を比較します。価格を提示される側から、自分で価格を決める側へ変わることで、固定価格では拾えなかった需要まで拾えるのです。

正規の上位運賃を安売りしなくても済む

 もう一つ重要なのが、上位席の通常価格を崩しにくいことです。

 もし出発直前になるたびに、「ビジネスクラス、今なら半額」と販売していたら、「直前まで待てば安くなる」と思う人が増える可能性があります。

 すると、最初から正規料金で購入する人が減るかもしれません。このシステムは、対象となるお客様に限定して案内され、いくらでアップグレードできるかも最初から決まっていません。

 そのため、「通常価格で購入する上位席」と、「空席がある場合に成立するアップグレード」を分けることができます。正規価格を下げず、空いている在庫だけを別の方法で収益化しているのです。

「自分で決めた金額」だから納得しやすい

 固定価格で、「3万円追加してください」と言われると、「高いな」と感じるかもしれません。

 しかし入札では、「この金額なら払ってもいい」と自分で決めます。その金額でアップグレードできれば、「自分が納得できる価格で取れた」という感覚を持ちやすくなります。

 つまり、航空会社が高い商品を売り込むのではなく、お客様自身に、「この快適さに、いくら払う価値があるか」を考えてもらう仕組みにしているのです。

「売れ残り」を「入札したくなる商品」に変える

 このシステムの面白いところは、「売れ残った上位席」を、「あなたなら、いくらでこの席に乗りますか?」という商品に変えている点です。

 空席
 ↓
 お客様が入札する
 ↓
 価値を高く感じる人からアップグレードする

 という仕組みにすることで、何もしなければ売上ゼロだった座席から追加収益を作ることができます。

 お客様にとっても、「正規料金では買わないけれど、この金額なら上位席に乗ってみたい」という新しい選択肢になります。

 航空会社は空席から売上を得て、お客様は自分が納得した価格で快適な体験を得られる可能性がある。その両方を成立させているのです。

他のお店でも使える
「余った上位在庫を入札させる」設計

 この仕組みは、「期限を過ぎると販売価値がなくなる上位商品」を持つ業種でも応用できます。

 ・ホテル
 スタンダードルームの予約客に、「スイートルームへのアップグレードをご希望なら、追加料金をご提示ください」と案内する。空いた上位客室を値下げ販売せず、既存客の中で価値を感じる人へ販売する。

 ・コンサート・スポーツ観戦

 一般席の購入者に、開催直前に空いているVIP席へのアップグレードを案内する。正規価格を守りながら、空席を追加売上へ変える。

 ・レンタカー会社

 コンパクトカーの予約客に、空いている高級車や大型車へのアップグレードを入札形式で案内する。当日使われなければ売上にならない上位車種を収益化する。

まとめ

 この仕組みを販促の観点から整理すると、

 ・出発した瞬間に価値がなくなる上位席を、最後まで収益化する
 ・「2万円なら払う」「5万円でも払う」という、お客様ごとの支払意思額を入札によって引き出す
 ・固定価格では拾えなかった需要を取り込み、空席から追加売上を作る
 ・一般的な値下げ販売とは分けることで、通常の上位運賃の価格を守る
 ・お客様自身に価格を決めてもらい、「売られた」ではなく「自分で選んだ」という納得感を作る

 という、出発した瞬間に価値がなくなる「空席」を、お客様が感じる価値に合わせて最後まで売上へ変える販促の仕掛けなのです。

岡本達彦(おかもと・たつひこ)
販促コンサルタント
現場目線ですぐ使えるマーケティングを伝える第一人者。
広告制作会社時代に100億円を超える販促展開を見て培った成功体験をベースに、むずかしいマーケティングや心理学を使わず、
アンケートやマンダラ等を活用して、誰でも売れる広告を作れる手法を体系化する。
業界を問わず即効性が高く、お金をかけずに売上を上げられることから、全国の商工会議所・経済団体などからセミナー依頼が殺到する。
初の著書『「A4」1枚アンケートで利益を5倍にする方法』(ダイヤモンド社)は、Amazon上陸15年、「売れたビジネス書」50冊にランクインする。
他の著書に、『お客様に聞くだけで「売れない」が「売れる」に変わるたった1つの質問』
『あらゆる販促を成功させる「A4」1枚アンケート実践バイブル』
『「A4」1枚チラシで今すぐ売上をあげるすごい方法』『「マンダラ広告作成法」で売れるコピー・広告が1時間でつくれる!』(以上、ダイヤモンド社)等がある。