絵がうまい人は、手先が器用だから絵が描ける。そう思っていないでしょうか。しかし、本当に重要なのは「描く技術」より前にあります。それは、目の前のものから「特徴」を見つけ出す力です。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』の中からビジネスパーソンにも役立つノウハウとして紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

「絵がうまい人」だけが持っている、優れた能力とは?

「棒人間」が人間に見えるのはなぜ?

 誰でも一度くらい、丸と線だけで「棒人間」を描いたことがあるでしょう。

イラストはそのものの「特徴」を抜き出すことができます。
たとえば、「人間」について考えてみましょう。
みなさんも一度は「棒人間」を描いたことがあるのではないでしょうか。
背骨や頭があるという人間の特徴をしっかりと抜き出して描いているのです。
事実を映し出す写真や映像には、これができません。
どうしても肉がついてきてしまいますし、具体的な「誰か」になってしまいます。
イラストは、描くモチーフから「どの特徴を抜き出すか」を決めることができます。
だから、「人間全般に共通する特徴」だけを抜き出すこともできるのです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 棒人間には、髪型も服装もありません。
 それなのに、私たちは一瞬で「人間だ」とわかります。

 なぜなら、「頭がある」「胴体がある」「手足がある」といった、人間らしさを判断するために必要な特徴が残されているからです。

 つまり、絵を描くとは、見たものをそのままコピーすることではありません。
「何を残して、何を捨てるか」を決める作業でもあるのです。

「楽しそう」を描くなら、何を見る?

 さらに難しいのが、目に見えない状態を描くときです。

棒人間は、人間の特徴のうち、背骨や顔があるということだけを抜き出したものです。
でも、もし「楽しそうにしている人」や「サッカーをしている人」などを描く場合は、抜き出してくる特徴を変えなければいけません。
「楽しそうにしている人」なら、たとえば、笑顔を抜き出す。両手を上げている。飛び跳ねている……。
というように、特徴を抜き出していきます。
こうやって細かな特徴を集めていくと「楽しそうな人」の絵が描けるようになります。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「楽しさ」そのものは目に見えません。
 でも、笑顔、上がった両手、飛び跳ねる体は見える。

 絵がうまい人は、そうした具体的な特徴を見つけ、「楽しそう」という抽象的な状態を表現しているのです。

絵がうまい人は「目の付けどころ」が違う

絵の描き方の話をしているのは、「目の付けどころ」によって、捉えられる特徴が変わることを知っておいてほしいからです。
どこに注目するかによって、絵は変わってきます。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 これは、絵だけの話ではありません。
 仕事でも、「あの人は仕事ができる」と感じたとき、そこで止まる人と、「なぜそう見えるんだろう?」と観察する人がいます。

 返信が速い。事前に資料を読んでいる。質問が具体的。締切より早く提出する。

 特徴を抜き出せれば、「仕事ができる」という曖昧な言葉の中身が見えてきます。

 だから、絵がうまい人が持っている優れた能力とは、単なる画力ではありません。
 目の前のものをよく観察し、「そのものらしさ」をつくっている特徴を見抜く力です。

 大事なのは、うまく描けるかどうかではない。
「どこを見るか」なのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。