初対面の人や言葉が通じにくい人とは、どうしても距離を感じます。そんなとき、話術を駆使するよりも簡単に距離を縮められる方法があります。本記事では、書籍『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』をもとに、その方法を紹介する。(構成/ダイヤモンド社・種岡 健)

一瞬で人と仲良くなるための「しぐさ」とは?

言葉が通じない相手に、どう伝える?

 こんな場面を想像してみてください。

「日本語が通じないかもしれない相手」に、どのようにものを伝えたらいいでしょうか。
日本語教育学を専門とする岩田一成が『やさしい日本語ってなんだろう』で紹介していた事例を見てみましょう。
ある電車内。車掌さんがアジア系の人らしき乗客に話しかけています。
「乗車券を拝見します」
聞かれた乗客は、何を聞かれているかわからず、戸惑っているという状況です。
みなさんなら、どのように手助けするでしょうか?
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「乗車券」「拝見」という言葉がわからない。

 そんな相手に、同じ言葉を何度も繰り返しても意味がありません。

 かといって、「英語ならわかるだろう」と考えるのも早計です。

 では、どうするか。

「やさしい言葉」に置き換える

岩田一成が紹介していた方法は、自分の切符か電子マネーのカードを見せながら、「『切符はありますか?』と言い換えて聞く」というものでした。
外国人だから英語が伝わるはず、というのは思い込みです。
日本にいる場合、日本語を勉強している可能性もあります。
だから「乗車券」という耳慣れない言葉ではなく、「切符」という聞きなじみのありそうな言葉に置き換えると伝わりやすくなる、ということでした。
「拝見」も難しいので、「ある」というわかりやすい言葉に置き換えています。
単語をわかりやすく置き換えるだけで、伝わる可能性は高くなる、という話です。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

 たしかに、「乗車券を拝見します」よりも、「切符はありますか?」のほうがわかりやすい。
 これは「言葉」の工夫です。

 しかし、もうひとつ重要なことをしています。
 自分の切符を見せているのです。

「コレ」を見せれば、一瞬で同じ世界に立てる

ただ、ここで私が注目したいのは、「自分の乗車券を見せながら」という部分です。
まさにこれが「コレ」を共有しあう方法です。
これこそが、私の考える最適なコミュニケーションの取り方なのです。
言葉が通じない人とは、どうしても距離感を遠く感じます。
「コレ」と言いながら実物を差し出すのは、そんな距離の遠さを一気に消し去る最強のコミュニケーションです。
――『言語化だけじゃ伝わんない』より

「乗車券」と言っても、相手の頭の中に何が浮かんでいるかわかりません。

 でも、実物を見せながら「コレ」と言えば、お互いがまったく同じものを見ることになります。

「私が話しているのは、コレですよ」

 それが一瞬で共有される。
 言葉や文化が違っても、目の前の「コレ」は同じです。

仲良くなりたければ「同じもの」を指し示す

 これは外国人との会話だけではありません。
 初対面の人とも、

「この料理、おいしいですね」
「あの建物、すごいですね」
「この資料なんですけど……」

 と、同じものを見ながら話すと会話が始めやすくなります。

 何もないところから「面白いことを話そう」とすると難しい。
 でも、目の前にあるものを指し示せば、2人に共通する話題が一瞬で生まれます。

 つまり、人との距離を縮める「しぐさ」はシンプルです。

 相手と同じものを見て、「コレ」と指し示す。
 仲良くなるとは、たくさん話すことではありません。

 2人のあいだに「同じもの」を少しずつ増やしていくことなのです。

ヤギワタル
1981年静岡県生まれ。制作会社にて、雑誌タイアップ広告の制作進行を務めたのち、フリーランスのライターを経験。国際情勢関連の英日翻訳をやりながら、2011年からイラストレーターの活動をスタート。現在は書籍・雑誌・広告など幅広く活動中。特に、ビジネス書や新書での挿絵や図解を担当することが多く、10年以上、活躍している。
これまで、装画・イラストを担当した書籍は200冊以上。『言語化だけじゃ伝わんない ―― 絵を描くように「考える・伝える」技術』(ダイヤモンド社)が初の単著となる。