アートを楽しむ場所は、なにも静寂に包まれた美術館の中だけとは限りません。私たちが普段ふと通り過ぎている街角のベンチやビルの谷間にも、実は世界的なアーティストが仕掛けた作品がひっそりと息づいています。『「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室』の著者・末永幸歩氏に、いつもの散歩道を少し特別な時間に変えるためのヒントを語っていただきました。(聞き手/ダイヤモンド社・森遥香)

「LOVE」ロバート・インディアナ「LOVE」ロバート・インディアナ

新宿の巨大彫刻から、立川の「アートの街」まで

森遥香(以下、森):私たちはアートを「美術館という四角い箱の中に入って、静かに鑑賞するもの」と思い込みがちですが、実は何気なく歩いている日常の街角にも、ものすごい現代アートが隠されているそうですね。

末永幸歩氏(以下、末永):そうなんです。それを「パブリックアート」と呼びますが、意識して探してみると、私たちの身近な場所に世界的な傑作がゴロゴロ転がっています。

例えば、東京・新宿のアイランドタワー前にある、赤くて大きな《LOVE》の文字の彫刻は有名ですよね。

あれはポップアートの巨匠ロバート・インディアナの代表作で、美術の教科書にも載っているような世界的な美術作品です。 

私自身がよく訪れる場所としては、立川駅周辺。案外知られていませんが、世界有数のパブリックアートの街です。

1990年代の街づくりの一環として、街のあちこちにアートが組み込まれています。、フランスの有名アーティストであるニキ・ド・サンファルの作品をはじめ、世界36カ国・92人のアーティストによる109点もの作品が、街のベンチや車止め、換気口などに溶け込んで設置されています。私は立川からわりと近いエリアの学校で美術教師をしていたこともあるのですが、恥ずかしながら、その当時はパブリックアートにあまり意識を向けていませんでした。今となっては「生徒たちと街に繰り出せばよかった!」と少し後悔しています。

今では、まるで子どもの頃の宝探しのように街中でアート探しをしています。

街全体が「要塞美術」であるマルタの暮らし

森:そんな視点を持つことで、普段の通勤路や散歩道が、一気に「美術館」に変わるわけですね。

末永:そうなんです。私が現在暮らしているマルタでも、街中でアートを感じることが多いです。とくに首都バレッタは、世界遺産の要塞都市で、16~17世紀のバロック建築が連なる街全体が巨大な美術作品のように感じられます。

もちろん、国立美術館(MUZA)のように名画が集結した美術館もありますが、宮殿や教会のような美術館以外の場所に設置された絵画や彫刻を発見する楽しみもあります。

また、そういった歴史的建造物のなかや、古い街並みに現代アーティストたちの作品が展示されていたりすることもあり、時代を超えたアートの融合が面白いです。

いつも使う駅前や公共施設、よく行く商業施設でパブリックアートを探してみてください。そうして「日常を新鮮なまなざしで眺め直す」こと自体が、感性の扉を開ける一歩となるはずです。