「モネは目にすぎない」――同時代の画家ポール・セザンヌは、印象派の巨匠クロード・モネをそう評しました。まるで機械のように、目に映る光景をそのままキャンバスへ写し取ろうとしたモネ。しかし、代表作《ルーアン大聖堂》に描かれたのは、実物のグレーとは程遠い「赤い大聖堂」でした。純粋な“目”になろうとしたモネは、なぜ現実とは違う色を描いたのでしょうか? 本記事では、ベストセラー『13歳からのアート思考』著者・末永幸歩氏の6年ぶりの新刊『「いまを生きる力」を取り戻す 感性の教室』から内容を一部抜粋して、モネが捉えようとした“世界の色”の謎に迫ります。

モネの名画に隠された、脳と色の“不思議な関係”とは?Photo: Adobe Stock

見たままを描いたのに、なぜ実物と違うのか?

「モネは目にすぎない」

彼と同時期の画家であるポール・セザンヌ(1839~1906年)は、モネを評してこう語ったと伝えられます。「すぎない」という表現からは、冷ややかなニュアンスが感じられるのではないでしょうか。
しかし、まさにこの言葉どおり、モネ自身にはそもそも「想像力を働かせて独自の絵を描こう」という意識がなかったように思います。

むしろ彼は、ただの「目」になろうとしていました。

あたかも単純な機械になったかのように、「インプットされた視覚情報をキャンバス上にそのままアウトプットすること」だけを愚直に実行しようとしていたのです。その結果として行き着いたのが、《ルーアン大聖堂》でした。

モネの名画に隠された、脳と色の“不思議な関係”とは?《ルーアン大聖堂》クロード・モネ、1892年、ポーラ美術館(日本)

……しかし、ちょっと腑に落ちないという人もいるかもしれません。
モネが本当に純粋な「目」になろうとしていたのなら、《ルーアン大聖堂》はなぜこのような「色」に仕上がったのでしょう?

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下の写真は、近年に撮影された実際のルーアン大聖堂です。

モネの名画に隠された、脳と色の“不思議な関係”とは?近年のルーアン大聖堂 Photo: Daniel Vorndran(DXR), Wikimedia Commons(CC BY-SA 3.0)

モネの作品の「色」とは明らかな違いがありますね。この建物は、赤い塗装を施されているわけでも、赤いレンガでつくられているわけでもありません。ごく薄いグレーとベージュが混ざったような、ヨーロッパの建築物によく見られる石材の色味をしています。
「完全に写実的な風景」を目指したはずの《ルーアン大聖堂》は、現実とかけ離れた色をしているようなのです。

この謎について考えるために、簡単な実験をしてみましょう。下の図をご覧ください。盤面にある「A」と「B」のマスは、それぞれどんな色ですか?

モネの名画に隠された、脳と色の“不思議な関係”とは?@1995, Edward H. Adelson