病床で酸素マスクをつける高齢男性写真はイメージです Photo:PIXTA

「頑張って」「治療をやめたら後悔するよ」――がん治療に苦しむ家族に、そう声をかける人は少なくない。だが、その“善意”が、患者にさらなる苦しみを強いることもある。抗がん剤の副作用に耐え続けるべきなのか、高齢の親にはがんを告知すべきなのか。外科医として多くの患者と家族を見てきた医師が、自身の妻の治療経験も交えながら、「本人のため」という家族の思いに潜む意外な落とし穴を明かす。※本稿は、医師で作家の久坂部 羊『欲張らない死に方 賢く老いるヒント』(筑摩書房)の一部を抜粋・編集したものです。

がん患者への「頑張って」は
本当に励ましになるのか

 大切な家族や友人ががんになって、治療に専念しているとき、快癒を願って励ましたい気持ちになるのは、当然のことだろう。

 手術だけで治療が終わればいいが、術後の再発予防が必要だったり、転移があったりすると、抗がん剤や放射線の治療を受けることになる。

 人にもよるが、これらの治療はつらい副作用に悩まされることが多い。

 どれほど副作用がつらくても、命がかかっているのだから、頑張って耐える人が多いと思いきや、抗がん剤治療を担当する腫瘍内科医によれば、実際にはあまりの苦しさに耐えかねて、自ら治療の中止を言い出す患者も少なくないという。

 このとき、家族が、「何とか頑張ってほしい」とか、「ここを乗り越えたら、薬が効くかもしれない」とか、「今、治療をあきらめたら後悔する」などと言って、患者を励ますケースが少なくない。

 それは患者の治癒や延命を願ってのことだから、善意にはちがいないが、ここにも家族の欲望がひそんでいないだろうか。

 それが悪いと言っているのではない。むしろ、当然の気持ちだろう。問題は、その治療が苦しみに耐えるに値するかどうかが、だれにもわからないということだ。