親の介護は、ある日突然「自分事」になる。漫画家・鈴木マサカズ氏は、父親の介護をきっかけに老人ホーム探しの厳しい現実に直面したという。そんな実体験と、介護取材を続けてきた甚野博則氏の知見が重なって生まれたのが、新刊漫画『介護とハイエナ』(新潮社)だ。単行本1巻の発売を記念し、二人に「介護を自分事として描く」ということについて語ってもらった。(企画・構成:ダイヤモンド社書籍編集局 工藤佳子)

「月額12万円の老人ホームも18人待ち」…父の老人ホーム探しで知った、介護の“こんなはずじゃなかった”現実『介護とハイエナ』(原作:甚野博則/構成:鈴木マサカズ/作画:石津のぞみ)

「とにかく安いところがいい」
プレハブのような施設でも18人待ち

――『介護とハイエナ』の企画がスタートする前に、鈴木さんもお父さまの介護を経験されていると伺いました。

鈴木マサカズ(以下、鈴木):はい、自分も数年前から父親の件で、急に介護についていろいろ調べたり、経験したりしていたりしていました。

 なんとなく子どもの頃から、「年老いたらこういう老人ホームに行くんだろうな」と思い描いていたこともあったんです。でも父親のことで、それがいかに簡単ではないかというのを身に染みて感じました。

「月額12万円の老人ホームも18人待ち」…父の老人ホーム探しで知った、介護の“こんなはずじゃなかった”現実鈴木マサカズ(すずき・まさかず)
愛知県出身。京都精華大学芸術学部卒。スピリッツ増刊21(小学館)にてデビュー。著書に『無頼侍』(エンターブレイン)、『ダンダリン一◯一』(原作:田島隆/講談社)、など。2026年10月現在、「くらげバンチ」(新潮社)にて『「子供を殺してください」という親たち』(原作:押川剛)、第6回 さいとう・たかを賞 受賞作『ケーキの切れない非行少年たち』(原作:宮口幸治)、『それでも、親を愛する子供たち』(原作:押川剛 作画:うえのともや)、『教育虐待─子供を壊す「教育熱心」な親たち』(原作:石井光太 作画:ワダユウキ)、『介護とハイエナ』(原作:甚野博則 作画:石津のぞみ)を連載中。2026年5月『マトリズム 完全版』を配信。©新潮社

甚野博則(以下、甚野):お父さまは、当時どんな状況だったんですか。

鈴木:サラリーマンを辞めたあとに終の棲家としてマンションを買って、地方で母親と住んでいたんです。でも母親が亡くなって一人暮らしをしていました。そこから足が悪くなって、やっぱりいろんなことが難しくなってきたんですよね。頭はしっかりしていたんですけど、足が悪くなると、人間ってかなり厳しいんですよね。

 父は会社で経理をやっていたこともあって、なんでも自分で調べるような人だったんです。介護についても全部調べて、「こうやって、こうやって、こうする」と段取りを考えてくれていたので、その点はすごく助かりました。ただ、老人ホームを探すのはやっぱり大変でした。

甚野:老人ホームを探すとき、お父さまは何を優先されていたんですか。

鈴木:うちの父親は本当にお金をかけたくない人なので、「とにかく安いところがいい」と。それで調べたら、近所に月12、3万円くらいのところがあったんですよね。「そこを見学してきてくれ」と言うので、自分も相場がよく分からないまま行ってみたんです。そうしたら、プレハブ……は言い過ぎですけど、会議室を薄い板で3つくらいに区切ったような感じで。本当に何もなくて、ベッドだけが置いてあるようなところだったんです。父親はほぼ値段しか見ていなくて、「もうここでいいよ。ここに決めたい」と。それで聞いてみたら、そんなところでも18人待ちだったんですよ。いま思うと、やはり金額なんですよね。環境はともかく、相場から考えて、かなり安い。それで18人待ちだったんだろうと。ちなみに、これは5年前くらいの話で「空きができたら連絡します」と言われましたが、いまだに連絡はありません。いつか来るのでしょうか(笑)。

 父はお酒が好きだったので、最終的にはお酒を飲めるところを探したりして……。でも、本当に調べるだけでも大変なんですよね。父はまだ貯蓄があったからよかったですけど、「これ、お金がなかったら入れないじゃん」と思いました。自分がなんとなく思い描いていた老人ホームというものが、実際にはいかに大変なのか。父親の介護を通して、少しずつ気づいていきました。

「自分には関係ない」で終わらせない
物語を孤独死から始めたワケ

――そうしたご自身の介護経験がある中で、『介護とハイエナ』の企画の話が来たわけですね。最初はどんな打ち合わせをされたんですか。

鈴木:甚野さんは自分と同い年で、親御さんのことがきっかけで介護について調べ始めたと聞いて、「まさに同じじゃん」と。やっぱり親近感がありましたし、めちゃめちゃ興味がありましたね。

 まずは甚野さんの『介護の裏』(文春新書)を読んで、自分でも「あるある」とすごく納得した部分と、想像以上に「こんなにひどいんだ」と思った部分があって。やっぱり取材されているので、ネタがリアルなんですよね。

甚野:ありがとうございます。団塊ジュニア世代なので、まさに親の介護に直面していますよね。

鈴木:そうですね。この企画をいただいたとき真っ先に思ったのが、まさに「自分事」だということなんです。介護についてはこれからますます大きな問題になっていくと思う一方で、まだピンときていない人も多いんじゃないかと思っていて。だから、最初の2話は、主人公が母親を看取れなかったというところから始めることになりました。

 自分自身、母が亡くなってから父が一人暮らしだったので、「倒れたりしてないかな、大丈夫かな」と常に心配していたんですよね。自分が都会で働いていて、地方で親が一人暮らしをしている人って、同じような心配をしている人がけっこういるんじゃないかと思ったんです。だから、まずは切実なところから入ったほうが、介護を「自分事」として感じてもらえるんじゃないかと考えました。

「月額12万円の老人ホームも18人待ち」…父の老人ホーム探しで知った、介護の“こんなはずじゃなかった”現実甚野博則(じんの・ひろのり)
1973年生まれ。大学卒業後、大手電機メーカーや出版社などを経て2006年から『週刊文春』記者に。2017年の「『甘利明大臣事務所に賄賂1200万円を渡した』実名告発」などの記事で「編集者が選ぶ雑誌ジャーナリズム賞」のスクープ賞を2度受賞。現在はフリーランスのノンフィクションライターとして週刊誌や月刊誌などで社会ニュースやルポルタージュなどの記事を執筆。近著に『実録ルポ 介護の裏』(文藝春秋)、『ルポ 超高級老人ホーム』(ダイヤモンド社)、『衝撃ルポ 介護大崩壊』(宝島社)がある。©新潮社

甚野:『介護の裏』もそうなんですけど、僕も自分のことから書き始めているんですよね。だから、この漫画でもなるべく「自分事」として読んでもらいたいというのは、ずっとありましたね。

 それに、介護についてはたくさん取材してきたので、漠然と「介護は大変だ」「こんな問題がある」というだけではなくて、「実はみんなに関係がある話なんだ」ということは、どこかに入れたいと思っていました。

鈴木:実際、第1話、第2話の孤独死や親の介護の話を読んで、「自分もこれから親の介護をどうしようか考えていた」とか、「実は今ずっと苦労しているんです」と打ち明けてくれる人はいましたね。やっぱり、みんないろいろ考えたり、悩んだりしているんだなと思いました。それに、みなさんけっこう勉強しているんですよね。今はインターネットもありますし、介護についてかなり知識を持っている人もいる。

 X(旧:Twitter)を見ていると介護業界関係者という人からも「自分が働いていたところもこうだった」という反応はめちゃめちゃ来ましたね。「いいね」だけじゃなくて、当事者や苦労している人が引用して何か言いたくなる作品って、反響があるんですよね。