入居一時金数億、富裕層のみが入居できる“終の棲家”が、今話題の「超高級老人ホーム」だ。ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』では、至れり尽くせりの生活を享受するセレブな高齢者たちの実像に迫っている。だが、“選ばれし者”たちにも「介護」は突然やってくる。本稿では、40年近くにわたり高齢者向け介護事業のコンサルタントをつとめる、株式会社タムラプランニング&オペレーティング代表取締役の田村明孝氏に話を伺った。(取材:甚野博則、構成:ダイヤモンド社書籍編集局)
介護は“突然”やってくる
――拙著『ルポ 超高級老人ホーム』では、元気なうちからいくつもの高級老人ホームを吟味する高齢者たちを数多く取材しました。一方、突然家族が倒れ、要介護になった場合、いきなり老人ホームを探すのも大変です。具体的に今すぐ準備すべきことなどあるのでしょうか?
田村明孝(以下、田村):介護は突然やってきます。たとえば、親が脳梗塞で倒れて救急搬送され、手術を受けたあと、病院から「あと1週間で退院してください」といわれるようなケース。さて、どうしましょうとなるわけです。
こうした状況で事前に準備しておくことができれば理想ですが、突然親が倒れ、多くの人は準備不足のままあたふたしてしまうのが現実です。「介護保険について勉強しましょう」といわれても、事前に知識を身につけている人はほとんどいません。結局、ゼロどころかマイナスからのスタートになるケースがほとんどです。
――事前準備どころかマイナスからスタートして、いざというときに家族や本人はまずどのように動けばいいのでしょうか?
田村:多くの病院には「地域連携室」や退院サポートを行う部署があります。そこでは介護施設の情報を持っていたり、ケアマネジャーと繋いでくれる役割があります。たとえば、脳梗塞で半身麻痺が残った場合、自宅に戻るのが難しいケースが多い。その場合は「地域包括ケア病棟」と呼ばれる中間施設に移り、いわば二次入院のような形でリハビリを続ける選択肢もあります。
――「地域包括ケア病棟」はリハビリ施設のようなもの?
田村:そうです。基本的にはリハビリが目的の施設です。脳梗塞などの場合、短期的にリハビリ病院を利用するケースが多いですが、高齢者の場合、自宅に戻るのが難しいこともあります。そうした際に、家族が次の施設を探して決断する必要があります。
――病院側は移る場所が決まるまで入院させておいてくれるのでしょうか?
田村:緊急の場合、最長でも3ヵ月程度です。特に大学病院では1ヵ月で退院を求められることが多い。病床数の確保や医療報酬の制約があるため、病院側も長く患者を留めておくことは難しいのです。
――病院にある「地域連携室」の方は、いわゆるソーシャルワーカーのような役割?
田村:そうですね。ただし、有料老人ホームの内部事情や良し悪しまでを詳しく把握しているわけではありません。行政が用意した特定施設のリストを紹介する程度で、具体的なアドバイスを期待するのは難しいです。
“事前見学”で確認すべきこと
――結局、自分で情報収集するしかない?
田村:その通りです。もし時間があれば、地域連携室に1週間だけ時間をもらうなどして、家族だけでも見学を申し込み、必ず事前に見学してください。施設の運営方針やサービス内容が自分に合うかどうかは見学しなければわかりません。
施設長とも話をして、「こういう状態の親の場合、どんな対応をしてくれますか」と具体的に聞くことが大切です。最低でも数カ所を比較検討するのが望ましいですね。
――具体的にどういったことを確認すれば良いのでしょうか?
田村:たとえば、食事内容や介護サービスの範囲です。特定施設であれば介護職員が常駐していますが、住宅型の場合は「基本的にサービスは外部契約で」となることが多い。訪問介護や訪問看護、デイサービスなどを個別に契約する必要があり、負担が大きいです。ですから、介護付き有料老人ホームや特養など、包括的なケアが受けられる施設を選ぶほうが安心です。