ノンフィクションライター・甚野博則氏の新刊『ルポ 超高級老人ホーム』が話題だ。富裕層の聖域に踏み込んだ同書では、選ばれし者のみが入居する「終の棲家」を徹底取材している。同書の発売を記念した本稿では、発売後に寄せられた情報からさらに追加取材を重ね、超高級老人ホームの実態を描く。

「さっきまで元気に遊んでいましたよ」しかし夫は冷たくなっていた…。超高級老人ホームで闇に葬り去られた事件の数々価格に見合う環境なのだろうか(Photo: Adobe Stock)

ハムエッグに混入した“異物”

「インペリアルテラス関西(仮名)」は関西地方でも有数の超高級老人ホームだ。

 高額な部屋で、入居一時金が2億円を超すだけに居住者は、中小企業の経営者をはじめ、元大手商社マンや不動産業、株投資で富を築いた資産家や、その妻たちが多いという。

 一見すると、選ばれし者が集まった邸宅で、セレブなシニアライフを満喫しているかのようだ。しかし、日々の暮らしは決して優雅とは言い難く、さまざまな“事件”が起きている。

「普段から録音機と写真機は常備するべきだと学びました」

 そう話すのは居住者の榊原淑子さん(仮名)だ。その理由を「職員と入居者の間でよくトラブルが起こるから」と明かした。一体どういうことなのか。

「以前、この施設に入居していた方の食事の中に、ビニール片が混入していたことがありました。ハムエッグの中に異物が混入していたそうで、その方がスタッフに現物を見せたところ、『確かにビニール片だ』ということになった。ところが、後から出てきたマネージャーや料理長が、『ビニール片ではなく卵の皮が固くなったものだ』との説明を始めたそうです」

 どう見てもビニール片としか見えなかった入居者にとって、マネージャーや料理長の説明は納得がいかなかった。

疑惑の残る“検査結果”

 そこで施設側は本当にビニール片かどうか検査機関に出すからといって、その場を収めたという。ところが検査結果は、いつまでたっても報告されることはなかった。

 約2か月が経った頃、入居者が「あの時、検査機関に出すといっていたが結果は出たのでしょうか」と問い合わせたという。

「施設側は、検査の結果『卵』でしたと答えたそうです。報告が遅れた理由については、『正直に卵だと報告しても、納得されないだろうから、報告しようかどうか悩んでいた。悩むうちに時間が経ってしまった』と言い訳していたと聞きました」

 こうした対応に猜疑心を抱いた入居者は、それならば検査結果を見せてくれと施設側に要求してみたという。だが施設はこれを拒否。怪しいと思い、何度か検査結果を見せてほしいと要望すると、渋々書類のコピーを出してきたという。だが――。

「書類には混入物の写真や大きさが表記されていたそうですが、検査機関に提出した混入物が、明らかに別なものだったそうです。この入居者の方は、施設側に中身をすり替えられたと呆れていました。もちろん、当事者同士の事ですから事実はわかりませんが、こうした食い違いのトラブルが、ここではよく起こるんです」