本を読んだり、誰かの説明を聞いたりして、「なるほど、よくわかった」と感じたことはないだろうか。しかし、いざその内容を自分の言葉で説明しようとすると、うまく説明できないことがある。実は、私たちの脳には、情報をスムーズに理解できたように感じるだけで、「正しく理解できた」と思い込んでしまう性質があるという。人間が「わかったつもり」になってしまう理由を『すべて本能のせい』から解説する。(ダイヤモンド社書籍編集局)

目を瞑って椅子にもたれかかる女性Photo: Adobe Stock

「よくわかった」と思ったのに、説明できないのはなぜ?

わかりやすい解説動画を見たり、難しいテーマを簡潔にまとめた記事を読んだりすると、「なるほど、そういうことだったのか」と納得することがある。
複雑だった話が、すっきり整理されたように感じられる瞬間だ。

ところが、あとから誰かに「それってどういうこと?」と聞かれると、思ったほどうまく説明できない。

内容を理解したはずなのに、細かいところを聞かれると答えられない。

そんな経験はないだろうか。

実は、私たちは情報に触れたとき、その内容をどこまで正確に理解できたかだけでなく、「わかりやすかった」「すんなり頭に入ってきた」という感覚にも影響されている。

そして、その感覚が強いほど、十分に理解していなくても「わかった」と感じてしまうことがあるのだ。

「理解したつもり」を生み出す脳の仕組み

『すべて本能のせい』ではその仕組みを説明している。

私たちは、新しい情報に触れたとき、自分がそれを「本当に正しく理解できたかどうか」ではなく、「理解できた気がするかどうか」という主観的な感覚だけで物事を判断してしまうことがあるのです。
この性質の生物学的な背景には、「処理流暢性(しよりりゆうちようせい)」と呼ばれる脳の認知的特性があります。
処理流暢性とは、入ってきた情報が「どれだけスムーズに、簡単に処理できるか」という脳の使いやすさの感覚のことです。
私たちの脳は、この処理のしやすさを、その情報の正しさを評価するためのとても便利な基準として利用しています。
たとえば、目で見たものや言葉にしようとしたものの情報処理が引っかからずにスムーズに進むと、脳はその情報に対して「親しみやすい」とか「理解できた」という快い感覚を伴わせます。
また人間は、繰り返し接触した情報を無意識のうちに「真実らしい」と感じやすくなります。
これは単なる思い込みではありません。
脳では同じ情報に繰り返し接すると、その情報の処理が楽になることが知られています。
さらに脳の報酬系は、問題が解けたり、バラバラだった情報が一つの説明によって整理されたりしたときにも反応します。
実際には十分理解できていなくても、複雑だった情報が一つの説明によって整理されると、脳は強い納得感や快感を生み出します。
「処理が楽になった」という感覚と「深く理解できた」という感覚は、混同されてしまうことがあるのです。

「わかりやすい説明」が必ずしも正しいとは限らない

ここで注意したいのは、私たちが「わかりやすい」と感じることと、その情報が「正しい」ことは、必ずしも同じではないという点だ。

たとえば、複雑な問題について、誰かが短い言葉で明快に説明してくれたとしよう。
それまで難しく感じていた話が、一つの説明ですっきり整理されると、「そういうことだったのか」と納得する。

しかし、その説明が本当に正しいのか、重要な前提や例外が抜け落ちていないかは、別の問題だ。

また、同じ情報を何度も見聞きしているうちに、なんとなく正しいように感じられることもある。
繰り返し接した情報は脳にとって処理しやすくなるため、親しみやすさや納得感が生まれやすいからだ。

つまり、「何度も聞いたことがある」「すぐに理解できた」という感覚だけでは、情報の正しさを判断できないのである。

本当に理解できたかを確かめるには?

では、「わかったつもり」にならないためには、どうすればいいのだろうか。

一つの方法は、理解したと思った内容を、自分の言葉で説明してみることだ。
たとえば、解説記事を読み終えたあとに、記事を見ずに「結局、何が重要だったのか」「なぜそうなるのか」を説明してみる。
そこで言葉に詰まったり、理由をうまく説明できなかったりすれば、まだ理解が曖昧な部分があるのかもしれない。

また、わかりやすい説明に出会ったときほど、「本当にそう言えるのか」「ほかの見方はないのか」と考えてみることも大切だ。

もちろん、わかりやすい説明そのものが悪いわけではない。難しいことを理解するためには、情報が整理されていることも重要だ。

ただし、「すっきりした」という感覚と「正しく理解した」という事実は、分けて考える必要がある。
「わかった」と感じたときこそ、本当に自分の言葉で説明できるかを確かめてみたい。