「やりたいことがない」「将来の夢がない」と言われると、つい「もっと真剣に考えてみたら」と言いたくなります。しかし坪田信貴さんは、考える前に「知らないだけかもしれない」と疑うことが大切だといいます。知らない食べ物を「食べたい」と言えないのと同じように、知らない仕事や生き方は選べません。では、育てる側は何をすればいいのでしょうか。本稿は、坪田信貴著『育てる。』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋して紹介する。
Photo: Adobe Stock
「夢がない」のではなく、まだ「たこわさ」を知らない
親御さんから、「うちの子には夢がありません」「何になりたいのか聞いても、『別にない』と言うんです」という相談を受けることがあります。
でも僕は、それを聞くたびに思います。夢がないのではなく、まだ知らないだけではないか。
人は、自分が一度も見たことのない世界を、具体的に夢見ることはできません。経験したこともない。話を聞いたこともない。そこにどんな人がいて、どんな一日を過ごし、どんな喜びや苦労があるのかも知らない。その状態で、
「自分のやりたいことぐらい、自分で考えなさい」
と言われても、描けないのが普通です。夢を描くためには、まず材料が必要なのです。
SHOWROOMを創業した前田裕二さんは、「たこわさ理論」という、とてもわかりやすい話をされています。
子どもに、「何が食べたい?」と聞くと、多くの子どもは、「カレー」「ハンバーグ」「ラーメン」などと答えます。ところが、
「たこわさが食べたい」
と答える子どもは、ほとんどいません。それは、たこわさが嫌いだからではありません。そもそも、たこわさという食べ物を知らない。食べたことがない。だから、「食べたいもの」の選択肢に入らないのです。知らないものを、「食べたい」と言うことはできません。
「もっと真剣に考えろ」と言っても、知らない仕事は出てこない
これは、仕事や将来についても同じです。
「やりたいことがありません」
「将来、何になりたいのかわかりません」
「自分には、この仕事ぐらいしかできません」
と言う人がいたとしても、本当にやりたいことがないとは限りません。まだ、自分の心が動く仕事や生き方を知らないだけかもしれない。いまいる場所から見えている世界の中に、選びたいものがないだけかもしれないのです。それなのに、育てる側は、
「やりたいことぐらい、自分で考えなさい」
「もっと真剣に将来を考えろ」
「本気で考えれば、答えは出るはずだ」
と言ってしまいます。でも、たこわさを知らない子どもに、
「本当に食べたいものを、もっと真剣に考えなさい」
と迫っても、たこわさという答えは出てきません。頭の中に存在しないものは、どれだけ真剣に考えても選べないからです。だから、育てる側がすべきことは、正解を無理に答えさせることではありません。本人がまだ知らない「たこわさ」を見せることです。
「こんな仕事もあるよ」
「こういう働き方をしている人もいるよ」
「その経験は、別の分野でも生かせるかもしれないよ」
「一度、この人に会ってみない?」
「やってみなければわからないから、一日だけ体験してみない?」
そうやって、本人がこれまで立ったことのない場所へ連れていく。すると、
「そんな仕事があるなんて知らなかった」
「その方法なら、自分にもできるかもしれない」
「それは、少し面白そうだ」
と、初めて新しい選択肢が生まれます。本人の中に、最初から完成した夢が隠れていて、それを掘り当てればいいとは限りません。まだ知らない世界と出会うことで、初めて夢が生まれることもあるのです。
新しい視点をプレゼントするとは、こちらの答えを相手に渡すことではありません。本人が見ていた世界の外側にも、まだ別の可能性があると知らせることです。








