「社長、それは英断です」。一見、立派な褒め言葉に聞こえますが、坪田信貴さんは、この言葉を聞いて思わず吹き出したといいます。相手を褒めることと、相手の行動を上から評価することは、似ているようでまったく違う。では、本当に相手に届く「褒め方」とは何でしょうか。本稿は、坪田信貴著『育てる。』(ダイヤモンド社)から一部を抜粋して紹介する。

「社長、それは英断です」は“褒め言葉”ではない? 坪田信貴が吹き出した理由Photo: Adobe Stock

「社長、それは英断です」は、褒めているのか

 以前、友人が社長との関係に悩んでいました。僕もその社長を知っていて、とてもお世話になっていた方です。ある日、その友人が不満そうに言いました。

「社長は坪田さんのことが大好きなんだと思います。僕が同じことを言っても全然響かないのに、坪田さんが言うと聞くんです。あれ、何なんですかね?」

 そこで僕は聞きました。

「社長のこと、ちゃんと褒めていますか?」

 友人は間髪入れずに答えました。

「はい。最近は意識して褒めるようにしているんです」

「たとえば、何て言ったの?」

「先日も、『社長、それは英断です』と言いました」

 僕は思わず吹き出してしまいました。

「社長、それは英断です」

 これは一見、褒めているように聞こえます。しかし、よく考えてみると、社長自身を褒めているわけではありません。社長が下した判断を、自分が上から採点しているだけです。

「今回の判断は、僕が評価したところ、合格です」

 と言っているようなものです。そこで僕は聞きました。

「『社長を尊敬しています』ではダメなんですか?」

 すると友人は言いました。

「いや、尊敬できないところが多すぎるんですよ」

 正直です(笑)。そこで僕は、こう返しました。

「でも、尊敬できるところもあるでしょう。尊敬できないところが80あっても、尊敬できるところが20はあるはずです。その20に焦点を当ててみたらどうですか」

「さすがです」ではなく、本当に尊敬しているところを伝える

 ここで大切なのは、心にもないお世辞を言うことではありません。本当は何とも思っていないのに、「社長、さすがです」「本当に素晴らしいです」などと言えば、たいてい見抜かれます。そうではなく、相手の中に本当に存在する良い部分を探し、それを具体的な言葉にするのです。

「どんなに忙しくても、社員の家族の名前まで覚えていますよね」

「最後は必ず自分が責任を取ろうとしますよね」

「会社が苦しいときにも、社員の給料だけは絶対に遅らせませんでしたよね」

「新しい人の意見でも、一度は最後まで聞きますよね」

 そういうところを見つけて、
「僕は、そこを本当に尊敬しています」

 と伝える。そこまで言葉にして、初めて相手にも届くのです。

1時間ダメ出しできても、1時間褒め続けられない

 この連載でも紹介しましたが、「嫌いな相手の良いところを20個探す」のは、自分の視点を変えるためのワークです。その力を日常的に鍛えるために、僕は社員を育成するとき、出会った相手の良いところを、その場で10個、言葉にする練習も行います。たとえば、

「話し方のトーンが上品ですね」

「約束の時間ぴったりに来られるのは素晴らしいですね」

「相手の話を最後までしっかり聞いていますね」

「言葉の選び方が丁寧で印象的です」

「姿勢がよくて、とても信頼感があります」

「初対面でも場の空気を和ませる力がありますね」

「ビビッドなネクタイがお似合いですね」

 といった具合です。もちろん、本心で思っていないことを口にしてはいけません。大事なのは、相手をおだてることではなく、相手の中に実際に存在する特徴や価値を見つけることです。

 最初は、なかなか10個も見つかりません。「優しそうですね」「いい人そうですね」「すごいですね」くらいで、すぐに言葉が尽きます。しかし、これを繰り返していると、少しずつ相手を見る解像度が上がっていきます。話す内容だけでなく、話す速度、声の大きさ、間の取り方、目線、姿勢、服装、持ち物、相手への接し方、時間の使い方など、さまざまな部分が見えるようになります。

「1時間ダメ出しできても、1時間褒め続けられない」

 昔、あるテレビ番組で、僕がアドリブで言った言葉があります。

「1時間ダメ出しし続けられる人はいても、1時間褒め続けられる人はいない」

 ぜひ一度試してみてください。部下でも、子どもでも、夫でも妻でも、誰でもいい。1時間、褒め続けられるかどうか。3分もてば、かなり優秀です。なぜ、そんなことになるのか。理由の一つは、私たちには褒めるための語彙が圧倒的に少ないからです。「優しい」「真面目」「すごい」だけで終わらせず、

「人の話を遮らない」

「意見が違っても、まず受け止める」

「誰も見ていないところで片づけている」

「困っている人に、さりげなく声をかける」

 というところまで具体化する。これは単なる「褒める練習」ではありません。人のポジティブな側面や、その人ならではの特徴を見抜き、本人にも伝わる言葉へ変換する訓練です。