「子どもには迷惑をかけたくない」「近所付き合いは面倒だ」「一人のほうが気楽でいい」。人間関係のわずらわしさから距離を置き、自分のペースで暮らしたいと考える人は少なくありません。しかし、その気楽さが、老後に思わぬ不安を招くことがあります。ウェルビーイング研究の第一人者である前野隆司氏は著書『幸せの人類史 なぜ「幸福」は人類を「不幸」にしたのか』の中で、ブータンでの体験をもとに、人とのつながりと幸せの関係について語っています。(構成/ダイヤモンド社書籍編集局)

「一人のほうが気楽」な人が見落としている、老後の幸せの条件Photo: Adobe Stock

一人の気楽さに潜む落とし穴

困ったことがあっても、人には頼まず自分で何とかする。
近所の人とは、あいさつ程度の付き合いしかない。
誰にも迷惑をかけないことを、何より大切にしている。

こんなことに心当たりはないだろうか。
人に頼らず自立して生きることは、立派なことのように思える。

しかし前野隆司氏は、幸せの国と言われるブータンを訪れたときに得た知見をもとに、下記のように語っている。

ブータンを訪問して感銘を受けたことの一つは、前述したように多くの国民が世界の生きとし生けるものの幸せを願っている点ですが、もう一つは、困ったときに頼る人の数です。ある日本人が、ブータンの人々に「本当に困ったときに頼れる人の数は何人ですか」と調査して回ったところ、その平均値は50人だったというのです。
なんという人数でしょう。そんなにたくさん信じる人がいると安心ですよね。

――『幸せの人類史 なぜ「幸福」は人類を「不幸」にしたのか』より

ブータンの人々は、「本当に困ったときに頼れる人」が50人もいるというのだ。
では、日本はどうだろうか。前野氏はこう続ける。

かつての日本の村社会もそうだったのかもしれません。村社会では、良い意味でも悪い意味でも人間関係が濃い。濃すぎる人間関係に辟易した多くの人が、戦後は都会に出てきました。都会では、他人の世話にはならないことが気楽でいいと思われています。しかし実際は、いざというときに不安になります。都会での一人暮らしや核家族は、孤独になりやすいのです。つまり、人は、誰かとつながると幸せになる生物なのです。ブータンではそんなつながりの豊かな村社会が維持されていることが、幸せの一つの秘訣だといえるでしょう。
――『幸せの人類史 なぜ「幸福」は人類を「不幸」にしたのか』より

頼れる人が多いことは、幸せなこと

「他人の世話にはならない」のは確かに気楽だ。
だが人に頼らなければ、人から頼られることも少なくなる。
わずらわしさのない暮らしは、裏を返せば、困ったときに手を差し伸べてくれる人がいない暮らしでもある。
元気なうちは気づきにくいが、人の手を借りる場面が増える老後ほど、その差は大きくなっていく。

人は、誰かとつながることで幸せになる。
それは、老後にこそ実感することなのかもしれない。

小さな頼り合いから始めよう

ちょっとした頼みごとを、思い切って人にしてみる。
近所の人に、あいさつのあとにもう一言かけてみる。
誰かが困っていたら、自分から手を貸してみる。

そんな小さなやりとりの積み重ねが、いざというときに頼れる人を増やしてくれる。

迷惑をかけないことよりも、頼り、頼られる関係を少しずつ育てていくこと。
それが、安心できる幸せな老後への第一歩になるはずだ。