一流のリーダーはどのように仕事をしているのか。様々な観点があるテーマですが、モルガンスタンレー、Googleなどで働き4大陸50カ国以上のリーダーを見続けてきたピョートル氏は、「謙虚さこそが重要」と語ります。新刊『「謙虚さ」という戦略』から一部抜粋・編集してご紹介します。

マイクロソフトCEOが素直に謝罪した本当の理由Photo: gguy/Adobe Stock

マイクロソフトCEOサティア・ナデラが変えた組織文化

「戦略的な謙虚さ」を語り始めるのに最適な企業があります。
 アメリカの巨大テック企業、マイクロソフトです。

 映画やドラマでよく描かれる優秀なビジネスマンは、「勝つためには、会社の中で最も声が大きく、最も攻撃的な人間」というイメージがあるかもしれません。テーブルを叩く無慈悲な経営者―ウォール街映画の定番です。でも、ここに大きな矛盾があります。

 現実の世界において、数兆ドル企業を率いて成功しているパワフルなリーダーたちは、驚くほど腰の低いリーダーもいるです。リーダーシップに関する僕たちの常識を根底から覆しています。テクノロジーセクターは本質的に複雑で、凄まじい速度で変化し続けています。独裁的で全知全能の創業者がひとりですべてを決める「グレートマン理論」は、もはや成り立たなくなりました。

 マイクロソフトのCEO兼会長であるサティア・ナデラは、謙虚さを使いこなすリーダーの最たる例です。彼がCEOに就任した2014年、マイクロソフト内は「何でも知っている(Know-It-All)」というエリート特有の傲慢な文化が蔓延し、停滞していました。全員が会議室で最も賢い人間であろうとし、即座にすべてを知っていなければならないという期待があったのです。

 しかし、ナデラは「何でも知っている(Know-It-All)文化」を「何でも学ぶ(Learn-It-All)文化」へと、積極的かつ意図的に反転させました。
 すべてのことをわかっていると振る舞うのではなく、自分が「わかっていない」ことを認め、あらゆるものから学ぼうとする姿勢を見せること。これはまさに戦略的謙虚さを体現した一例です。

 この転換はマイクロソフトの企業文化を大きく変えるものでした。
 なぜなら、「何でも学ぶ」ということは、自分がわからないことや、間違っていることを認める姿勢と同義だからです。

 ナデラがこう宣言したことで、自分が「わからない」「間違っている」と認める心理的コストを、根本から引き下げました。「何でも知っている文化」の場合、ある経営幹部が失敗するプロダクトにしがみつき、自分のプライドとステータスを守るために、プロダクトを沈没させ続けます。「何でも学ぶ文化」に転換したことで、ナデラはチームに「わからない、データを見よう」と言える空気を作りました。
 つまり、市場が変化したとき、組織はダメなアイデアを捨てて、はるかに素早く方向転換できるようになったのです。

 象徴的なのが、ナデラ自身の失敗への態度です。
 女性が昇給を求めることについて不用意な発言をして批判を浴びた際、彼は社内メールで「あの質問への私の答えは、完全に間違っていた」と率直に認め、謝罪しました。

 普通の感覚なら、十万人を超える社員を束ねるトップが公の場で弱みを見せるのは大きなリスクだと考えるでしょう。威厳が損なわれることを恐れるのが普通だからです。
 でも、ナデラは「絶対に間違えないリーダー」という神話、つまり自分の無謬性を自ら壊すことで、結果的にマイクロソフトの企業文化のバグを修正したのです。

 トップが「自分も間違えるし、学んでいる途中だ」と示す。

 そうすることで、そこで働くすべてのメンバーも、「間違えることは当たり前、そこから学ぶことが大切」と認識することになります。この謝罪は、間違いを認めて学ぶという新しい文化を象徴する出来事になりました。