平成19年の夏。「最後の1人まで解決する」――国民の記憶に深く刻まれた、安倍元首相の年金記録問題解決へのメッセージ。しかし、その期限については明らかにしないまま、国民に“協力”を求める形で、その年の12月から、約1億人に「ねんきん特別便」の発送が始まった。

 そして、今年3月末には、舛添厚生労働大臣が「『ねんきん特別便』の処理作業を今年中までに一区切り付ける」と発表。来年1月には社会保険庁は新しい組織に移行するため、「負の遺産」は積み残さないという国民へのアピールだった。

 だが、政府の読みは甘かった。この時点で、未解決の「ねんきん特別便」は640万件にものぼっていたのだ。該当者不明といわれる5000万件の年金記録は、この「ねんきん特別便」の回答によってきれいに統合されるどころか、探し出せない記録の山として、新たに堆く積み上がっているという。

 本当に今年中に解決できるのだろうか――。われわれは「ねんきん特別便」の記録照会作業の最前線の現場にカメラを入れることにした。

未処理のまま、段ボール箱で山積み!?
放置された「ねんきん特別便」の回答票

段ボールに入ったままの「ねんきん特別便」回答票の山

 3月。われわれがカメラを入れたのは、神奈川県の横浜南社会保険事務所。「ねんきん特別便」の処理作業は地域の社会保険事務所で行なわれていると聞いたからだ。訪ねてみると、担当の職員が案内したのは、奥まった会議室だった。そこでわれわれが目にしたのは、段ボールに入ったままの、いまだ手つかずの、しかも1年以上も前に国民から送り返されていた回答票の山。その数、2万件以上という。どうしてこんなところに“放置”していたのか。

 職員によると、2月になって急に、段ボールで次々と回答票が「業務センター」から事務所に送られてきたという。当時、この事務所では、特別便を専門に対応する職員はわずか2人。当然、手が回らず、半ばあきらめるように会議室に積み上げるしかなかったのだ。

 このままでは事務所の本来業務に影響する――。この事態に動いたのが、神奈川県内の事務所を統括する神奈川社会保険事務局。オフィスビルの1フロアに県内の事務所へ送られてきたすべての回答票を集め、ここで一気に処理を進めようというのだ。

回答票の処理作業をする職員たち

 問題となったのは、「専門知識を持つ人員の確保」だったが、身内では職員7名、OB7名を集めるのが精一杯という状況。そこで、あとの50名近くは年金知識のないアルバイトや契約職員で対応することにした。彼らの研修にひと月を費やし、ようやく特別便の処理業務に着手できるようになったのは5月に入ってからのことだった。

 しかし、それにしても何故「業務センター」は、未処理の回答票を各地の保険事務所に送付せず、これほど長期間にわたって抱え込んでいたのだろうか。