2月末、追跡チームは、ある高級ホテルを訪ねた。会議室には30名ほどのスーツ姿の人々が集まり、面談会が開かれていた。転職先を探す医師と、人手不足に悩む地方の病院の「お見合い」だ。このお見合いを仕掛けたのは「医師エージェト」と呼ばれる人たち。医師と医療機関の仲介をして転職を進める会社だ。

転職を希望する医師と病院をマッチングする医師エージェント会社。病院からの依頼も相次ぎ、いま急成長をしているという。

 医師エージェント会社は、現在、全国に200社以上あると言われている。深刻さを増す医師不足を背景に急増している。エージェント会社社長の齋藤隆介さんは、今がチャンスだと言う。

「市場は間違いなくあります。医療機関はどこよりも需要は大きいです。ビジネスチャンスあり、だと思ってます」

 元々、商社マンだった斉藤さんが「医師エージェント」会社を設立したのは7年前。年々業績を伸ばし、現在社員は27人。広告会社や人材派遣会社など、他の業界から転職してきた人ばかりだ。

 ホームページで広告を打ち、転職を望む医師が登録すると、その条件に見合う病院を探す。転職が決まると、手数料を病院から受け取る仕組みだ。相場は医師の年俸の2割、およそ300万円。会社には、ホームページを見た医師からの問い合わせが殺到している。そのほとんどが、地方から東京など首都圏の病院へ移りたいという希望だ。勤務地以外にも「当直なし」「救急なし」など、負担の軽い勤務を求めてくる医師も少なくない。

医局制度の崩壊で
大都市を目指す医師が増加

 エージェント会社の担当者が、応募してきた医師と会うというので、同行させてもらった。待ち合わせ場所に現れたのは、30代の内科医。医師は日給8万円以上の医療機関を希望。将来的に家が欲しいので、できるだけ高級な所を希望しているという。この医師はかつて、中部地方にある大学医学部の系列病院に勤務していた。

「前は地獄のような働き方をしていたので、仕事があまり楽しめなくて。目の前にあるものをなぎ倒す感じでした。24時間365日ほとんど休みなしで、年間358日くらい働いていたと思うのですが」

かつては医師の供給源となっていた大学病院の医局。しかし2004年の制度変更で医局制度は崩壊。医師の“都市偏重”の引き金となった。

 医師は大学を卒業後、研修医として「医局」に入った。「医局」は、教授を頂点とし、診療から研究、教育を担う機関。さらに医局は人事も握り、所属する医師を系列の病院に派遣。教授の意に沿わない医師が不当な待遇を受けたり、過酷な勤務を強要されたりするなど、弊害が指摘されてきた。そこで国は2004年、新たな制度を導入。大学を出た研修医が、医局に入らなくても職場を自由に選ぶことができるようにした。その結果、この医師のように医局を去り、大都市を目指す人が増えた。

「(医局を抜ければ)オンとオフがはっきりしてるので、休みたいときは休めるし、正直良くはなりましたけど」

 医療制度の大きな変更。これまで、絶大な力を誇ってきた医局に代わる形で成長したのが「医師エージェント」だ。エージェント会社社長の齋藤隆介さんは、いまの状況を次のように語る。

「医局を壊したみたいなことは国がやったのでしょう。いまさら元には戻せないでしょうから、民間のわれわれのようなところが、いまはやるしかないのかなと」