中東ドバイで開かれたインターポール主催の国際会議。特定の犯罪組織を対象にした会議としては異例。

 今年2月、中東の巨大都市ドバイで、ある国際会議が開かれた。「プロジェクト・ピンクパンサー」。インターポール(国際刑事警察機構)が特定の犯罪組織を対象に主催した異例の会議で、日本をはじめ24ヵ国の警察が参加した。

 ピンクパンサーの犯行が始まったのは、1990年代の末。白昼堂々、宝石店を襲い、狙ったダイヤを数十秒で奪い去るのが特徴だ。映画「ピンクパンサー」と似た手口の犯行があったことから、イギリスの警察が名付けた。

 インターポールによると、メンバーは世界で200人以上とされ、その多くが旧ユーゴスラビアのセルビアとモンテネグロの出身と見られている。当初は、同じヨーロッパの国々が狙われていたが、その後、犯行はアメリカや中東など28ヵ国に拡大。被害総額は350億円以上におよぶ。

犯行時間はわずか32秒。
奪われた2億円のティアラ

 ターゲットの1つが日本だ。4年前には東京・銀座の宝石店が襲われ、100カラットのダイヤがちりばめられた2億円のティアラが盗まれた。実行犯の1人とみられるリファト・ハジアフメトヴィチ被告は、去年8月に逮捕された。

 防犯カメラによると、犯行はわずか32秒あまり。客を装ったリファト被告が、ティアラの置かれたショーケースに向かい、仲間が店員の気を引く隙にケースをこじ開けた。気づいた店員を仲間が催涙スプレーで威嚇。店員が女性だけになる、わずかな時間を狙った犯行だった。

銀座の宝石店を襲ったとして逮捕されたリファト・ハジアフメトヴィチ被告(写真左)。犯行時、店員を仲間が催涙スプレーで威嚇している(写真右)。

 リファト被告は事件の2ヵ月前にチェコの偽造パスポートで入国し、来日は初めてだったとみられる。慣れない日本で、なぜ手際よく犯行に及ぶことができたのか。

 追跡チームが独自に入手したインターポールの捜査資料から、リファト被告が日本に住む外国人のネットワークを巧みに利用していたことが明らかになった。

 その1人が、南米出身のジュリア(仮名)。日本に長く住み、六本木でホステスをしていた。リファト被告はイラン人の仲介者を通じてジュリアを協力者にし、犯行の準備を進めるための拠点として六本木のマンションを利用していたほか、携帯電話も提供させていた。