人種問題に悩まされた過去を意識してか、ボストンマラソン爆弾事件解決後に人種や宗教について言及する市民は少なかった。しかし、「外国人恐怖症」はアメリカ社会に存在する。英語圏で使われる言葉の中に「ゼノフォビア」というものがある。ギリシャ語の「ゼノ(異国の人間)」と「フォボス(恐怖感)」の合成語だが、「外国人嫌い」という意味で20世紀初頭から使われている。今回のレポートでは「脅えるアメリカ社会の象徴」としてゼノフォビアとレイシズムの2点に注目したいと思う。

「文明の衝突」発表から20年
外国人恐怖症を患うアメリカ社会

 20年前の1993年夏、ハーバード大学教授のサミュエル・ハンティントン氏が外交専門誌「フォーリン・アフェアーズ」に『文明の衝突?』と題した論文を寄稿した。

 論文の内容は冷戦終結後の世界では、異なる文明同士の衝突が国家間の対立を引き起こす新たな要因となるというもので、イスラム圏に関する記述が非常に多かったため、アメリカの国内外で大きな注目を集めた。

 ハンティントン教授は3年後の1996年に、加筆した原稿をもとに書籍版『文明の衝突」を上梓。その後、2001年に発生した911同時多発テロ事件の発生も影響し、ハンティントン教授の理論を支持するアメリカ人が急増した。

 ハーバード大学の近くにあるマサチューセッツ工科大学のノーム・チョムスキー教授は、「冷戦終結後に敵となる存在を失ったアメリカに、新たな軍事行動や破壊活動をさせるための正当性を与えてしまう」と文明の衝突論の内容を批判。賛否両論あるものの、「文明の衝突」はアメリカ人に異文化に対する1つの見方や方向性を示した書籍として、少なからぬ影響を与えたのだ。