序章 マッキンゼーとは何者か:「最も優秀な人材」の貢献度
では最後に、社会に対してはどうなのだろうか。マッキンゼーが企業をより効率的に、より合理的に、より客観的に、より実情に基づいたものにしたのは間違いない。しかし、企業決算以外について、どの程度の貢献をしたのだろうか。
マッキンゼーは、自分たちのコンサルタントはビジネス思考の最高の伝道者だと世界に信じさせ、企業を果敢に突き進ませることで利益を押し上げるだけでなく、人間の進歩を助けたと思わせる。この考え方には一理はある。そして、世界で最も優秀で、最も成功している会社が彼らを雇いつづけているとしたら、それ自体が彼らの作りあげた価値観を証明していることになるだろう。
しかし、世界の大企業の多くにとって、見過ごしがたい事実もある。マッキンゼーのアドバイザーが傭兵のように金目当てで行動し、価値があるか疑わしい仕事に対して莫大な手数料を取っているという実例が数多くあるということだ。彼らは、企業が最も弱っているときに物事を客観的に見るために雇われるが、現実には単に重役の代理をしているだけだ。
過酷なコストカットのために正当な言い訳を求めている経営者たちにとって、間違いなく彼らは、頼りになるコンサルタントであるばかりでなく、責任を負わせられる都合のいいスケープゴートなのだ。正確に判断するのは不可能だが、現代史上どの時代においても、マッキンゼーがどこよりも大規模なレイオフを正当化している唯一にして最大の組織だという可能性は、十分にある。
ある意味において、マッキンゼーはコンサルタント業界のゴールドマン・サックスだ。どちらの会社もそれぞれの業界においてトップにあるが、ともに別のことを象徴している――彼らに注がれたすべての知力とエネルギーが、はたしてその機会費用に本当に見合っているのかという難問だ。
アメリカの最も優秀な人材(ベスト・アンド・ブライテスト)が意味のある貢献ができるのは、その場所なのか。マッキンゼー自身のこの疑問への部分的な答えは、アメリカ経済が過去50年余りで最も過酷な難題に直面したとき、その狙う相手をよりグローバルに活躍するクライアントへと変えることだった。徹底的にマッキンゼー化されたアメリカは根本から再建するしかなく、それはマッキンゼーには不向きな仕事だった。
この点において、マッキンゼーへの疑問は、アメリカのビジネスそのものへの疑問と同じかもしれない。いまでも新しい発想を生み出しているのか、それとも、競争相手より抜きん出ていたという過去の栄光に頼っているだけなのか。このどちらも当てはまるが、では、それぞれどの程度なのだろう。
マッキンゼーは特にそうだが、一般的にコンサルティング業務を明確にするのは常に難しい。一つには、仕事が終わって料金が支払われたら、コンサルタントはすぐに姿を消す、というのがクライアントとコンサルタントの理想的な関係だという理由がある。しかし、そもそも実際に売り買いされたものがわかりにくいという、別の理由もあるのだ。
要するに、マッキンゼーは自分たちによる啓発、つまりクライアントより物事をはっきりと見られる能力を、売っている。一度なら、たいしたことはない――ビジネスにしろほかのことにしろ、多くの問題は新鮮な観点を持つことで解決される。これをほぼ1世紀にわたって行うのは、実に困難な仕事だ。しかしマッキンゼーは、どうやらこれを達成したらしい。
CEOがマッキンゼーを雇うとき、自分が雇っているのは会社の小切手を切る価値のある、最も賢明で最も勤勉な人々だと知っている。洞察力はしばしば極端な分析から得られるものであり、世界中でマッキンゼーほどすぐれた分析家集団はいない。そして彼らは、どこで活動すべきかを常に知っているように見える。2012年、中国を拠点とするマッキンゼーのビジネスは、社内で最も急激に成長した領域の1つだった。
しかしまた、CEOがマッキンゼーを雇うのは、その影響力と権力、さらに企業や政府の意志決定の構造にトップレベルで緊密につながっているからだという理由もある。マッキンゼーの元MD(マネージング・ディレクター)ラジャット・グプタが、ゴールドマン・サックスの役員室の椅子に座って内部情報を利用していたのは、驚くようなことではない。単に、知っている相手のことだったというだけの話だ。そしてマッキンゼーは、あらゆる人物を知っている。
良かれ悪しかれ、マッキンゼーは世界で最も影響力のある人材がつどう集団というだけなのかもしれない。私たちの大部分が気づかないうちに、マッキンゼーがどのようにして力を手に入れ、保持しているかは、話のごく一部だ。本書は、この「ザ・ファーム」が1920年代の設立以来、その影響力を使って何をしてきたかを扱っているのである。
この連載は今日で最終回です。ご愛読、ありがとうございました。
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