「で、どうする?」

 賞金の30万円を手にして、メンバーは多いに悩んだ。プロジェクトを実現したい、という思いはあれども、考えてみたら、誰一人として酒造りを経験した者はいない。

「どうしよう……」

 それぞれが仕事や学業を抱えているだけに、全員揃ってのミーティングもままならない。議論は堂々巡りを続け、時にメンバーの意見が激しく対立。チームはしばしば空中分解の危機にも直面した。

暗礁に乗り上げたプロジェクトに
突如現れた救世主、「井上さん」

「本気で事業化するなら、現地に拠点を置かないと……」

 誰からともなく、そんな声が出始めていた時だった。

「そうだ、まずはフィリピンからスタートしたらどうだろう?」

 ちょうど、メンバーの1人である森住さん(26歳)が仕事のため、1年のうちの半分をフィリピンで暮らすようになっていた。ならば、まずはフィリピンでスタートし、うまく行ったら、それを東ティモールへと展開すればいい、と発想を変えたのである。

 冒頭で紹介した井上さんにメンバーが酒造りについての相談を持ちかけたのも、この頃だ。通常のものづくりは「中身」を先に作ってから、パッケージを考える。しかし、机上のプランが先行していた彼らのプロジェクトに肝心の中身は存在せず、久住さん考案のキットデザインだけが先行してあった。

 相談を持ちかけられた井上さんはその時、メンバーにこう言った。

「わかった。ラオスまで来るなら、中身についてはオレが面倒を見てやってもいい」

 実際に来るか来ないか、は半信半疑だったという。

 久住さんと山本さんの2人がメンバーを代表し、井上さんを訪ねてラオスまでやってきたのはその翌年、2012年2月のことだった。

 井上さんが見守るなか、2人は現地でココナッツを仕入れ、実際に醸造酒を作ってみた。すると、思いもかけない問題点が浮かび上がった。測ってみたら、ココナッツの糖度がそもそも4~5%しかなく、酒造りには物足りないことが判明したのである。

「ど、どうしよう……」

 頭を抱える2人。

 このままでは、せいぜいアルコール度数2%程度の酒にしかならない。そればかりか、ココナツを容器として使用する限り、品質が必ずしも安定しないこともわかった。同じように作ったはずなのに、5個のうち1個は発酵が進み過ぎて「酢」に近くなってしまっていたからだ。