第一生命保険の上場に当たって、みずほフィナンシャルグループが巨額の出資で筆頭株主になることが波紋を呼んでいる。

 第一生命は2010年4月1日に、相互会社から株式会社になる。それに伴い株式が上場され、みずほ全体で、安定株主として発行株式の5.6%を引き受ける予定。第一生命の想定株価15万円で計算すると、みずほは株式の引き受けに840億円を投じることになる。

 みずほのこの動きは、二つの問題をはらんでいる。第1の問題は、持ち合い株式に関する矛盾だ。

 銀行は、保有株式の株価下落によって資本が毀損するのを避けるため、保有残高を減らしてきた。みずほも09年4~12月で、約2000億円の持ち合いを解消してきたところだった。

 そんな矢先での巨額出資だけに、いかにも奇異に映る。みずほは、相互会社の株式に当たる基金に出資していた金額はすべて償却ずみ。つまり、株式を引き受けるために、新たなカネが必要になる。「これまでも、今回も、出資についてはすべて織り込みずみ」(みずほ幹部)としているが、2000億円の約4割が再び、持ち合いに回ることになるのだ。

 これでは、株式を減らされる企業から怨嗟の声が上がっても不思議ではない。というのも、銀行による株式の保有は支援継続の象徴。それを売却することは、「取引先には融資を減らすより深刻に受け止められる」(メガバンク幹部)だけでなく、株価も値崩れしかねない。

 それでも、経営基盤の安定という大義名分の下に、みずほの行員は、取引先に持ち合い解消の要請をし続けるしかないが、担当企業から「第一生命にはカネを出して、うちからは引き揚げるのか」と言われれば返す言葉もないはずだ。

 第2の問題は、今回の出資でみずほの自己資本の質が低下する恐れがあることだ。背景には現在議論が進められている、ダブルギアリングの規制強化案がある。

 ダブルギアリングとは、金融機関による他の金融機関等への出資。銀行間の持ち合いは、銀行の自己資本から差し引かれてしまう。保険への出資分もそこに含めて、規制を強化しようという案が、現在国際的に議論されているのだ。

 つまり、今回の出資はその案の行方次第で、せっかく出したカネがまるまる自己資本から吹き飛んでしまう危険性をはらんでいる。ただでさえ、みずほの自己資本の質は、増資に動いた他のメガバンク2グループに比べて大きく見劣りしているにもかかわらずだ。

 それでも、第一生命への出資を敢行するみずほの狙いは何なのか。「戦略的事業パートナーとしての出資で、ただの持ち合いとは意味合いが違う」と説明するが、“特別扱い”を株主に納得させるためには、シナジー効果による数字で目に見える結果を出すしか方法はない。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)

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