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スマートフォンの理想と現実

SIMフリーiPhoneが日本のモバイル産業に投じた一石

クロサカタツヤ [株式会社 企/株式会社TNC 代表]
【第55回】 2013年11月28日
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 そして切り崩された顧客たちは、通信事業者に縛られない自由な世界を、これまで以上に感じるだろう。通信事業者は顧客接点を失い、B2CからB2B2C(顧客接点を持つ企業への卸売り販売)というビジネスモデルを、これまで以上に導入することになる。異なる方法での商売を取り込むというのは、商売をする側にしてみれば、かなり厄介なことだ。

 またそうした動きが構造化されていく可能性がある。前述のモデルは、あくまでMVNOによる回線サービスを想定しており、まだ最終顧客向けの小売というイメージだが、たとえば業務端末としてiPhoneを導入したいと思う事業者や、それを促進したいと考えるシステムベンダー等にとっても、柔軟な対応ができるようになるだろう。

 たとえば、農協(ないしは民間で競合するコメリのような事業者)が、MVNO事業に参入し、農業を営む方々に向けて農業関連のアプリをバンドルしてパッケージ化したら、どういうことが起きるだろうか。おそらくこれまで通信事業者が提供していた同様のパッケージよりも、はるかに気の利いたものができあがるだろうし、通信料金を含めたビジネスモデルも、柔軟に構築できるようになるはずだ。

 これは別に農業に限った話ではなく、様々な産業分野で同様のことが考えられる。こうした展開が進むと、通信事業者は単に通信回線を提供するだけの存在になり、本当の意味で土管化が進むことになる。すなわち、産業構造の変革が促される可能性がある、ということだ。

タブレットに波及するか

 最終消費者向けの市場では、それほどのインパクトはないかもしれない。しかし、競合事業者の追随も含め、じわじわと産業構造そのものが変革されていく可能性がある――今回のSIMフリーiPhoneは、中長期的にはそうしたインパクトを秘めていると、私は感じている。

 あるいはより大きなインパクトは、iPadなどのタブレット分野で、顕在化するかもしれない。業務端末としての可能性はもちろん、そもそもタブレットはWi-Fi中心という使われ方が少なくないことから、モバイル回線のニーズがスマートフォンよりも高くない。

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クロサカタツヤ
[株式会社 企(くわだて)代表取締役、慶應義塾大学特任准教授]

1975年生まれ。慶應義塾大学・大学院(政策・メディア研究科)修了後、三菱総合研究所にて情報通信分野のコンサルティングや国内外の政策調査等に従事。その後2007年に独立し、現在は株式会社企(くわだて)代表として、通信・メディア産業の経営戦略立案や資本政策のアドバイザー業務を行う。16年より慶應大学大学院政策・メディア研究科特任准教授。


スマートフォンの理想と現実

2011年はスマートフォンの普及が本格化する年になる…。業界関係者の誰しもがそう予感していた矢先に発生した東日本大震災は、社会におけるケータイの位置づけを大きく変えた。しかし、スマートフォンの生産に影響が及びつつも、通信事業者各社はその普及を引き続き目指し、消費者もまたそれに呼応している。震災を受けて日本社会自体が変わらなければならない時に、スマホを含むケータイはどんな役割を果たしうるのか。ユーザー意識、端末開発、インフラ動向、ビジネスモデル等、様々な観点からその可能性と課題に迫る。

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